< カーテン越しの愛の告白 >

 放課後の教室に、教師と女生徒の二人だけ。教師は女生徒に用事があったので、それはなんらおかしな光景ではなかった。
 普通と違ったことといえば、用事の終わりに女生徒が教師に要求をしたことだ。

「ねえ、先生。ちょっとそこに立っててくれません?」
「んあ? どこ?」
「そこです、そこ。その窓際にです」
「なんでまた……、まさかここから突き落とそうとか言わないよな。俺は窓と心中する気はないからね」

 いささか顔を青くする銀八に、妙はにっこりと笑いかける。可愛らしい笑顔で、

「なに馬鹿なこと言ってるんですか先生、堕としますよ」

 およそ可愛らしくないことを、ぽつりと。

「志村ァァァ! 漢字違うから、漢字おかしいから、やめてくんないその漢字!」
「もう。とにかく先生は言った通りにしてください。私、早く帰りたいんですから」

 だったら何も要求せずにとっとと帰ればいいのに、という正直な発言を銀八は控えた。世の中には言っていいことと悪いことと、言う必要のないことがあるのだ。わざわざ藪をつついて蛇を出す気は、銀八にはなかった。

「ほら、立ったぞ」
「それじゃあ窓のほうを向いて、こっちに背を向けてください」
「……お、堕とすなよ?」

 びくびくと、尻目に見てくる銀八に妙は苦笑する。しませんよと告げて、窓を覆うカーテンを銀八の背に引いた。

「? ……志村?」

 背後に白い背景が広がり、銀八が不思議そうに呼びかける。妙はそれに答えることなく、両腕を伸ばした。

「っ、しむら」

 背中の柔らかな感触とささやかな熱に、銀八はぎくりと体を強張らせる。その反応に妙はまた苦笑して、口を開いた。

「……好きになってごめんなさい、せんせい」

 消え入りそうな声を落とした妙は、すぐに体を離して教室を後にする。
 残ったのは立ち尽くす銀八ただ一人と、解放されてゆらゆらと揺れるカーテンだけだった。

捻りのないタイトルですいません