< 明後日、どうしたらいいのかしら >
くすんだ桃色のみつあみを揺らしながら、無邪気な悪魔がやってきた。
「ねえ、妙。遊ぼうよ」
「お断りします、今すぐお帰りください」
玄関先のやりとりは、いつの頃からかお馴染みになっていた。拒否の言葉だけでなく、一緒に塩をぶちまけたい気分にもなるが、大事な食料をそんなことに使いたくない。塩じゃなく砂にしてみようかと、妙は思った。
「相変わらずつれないネ」
「そうね。だったらそんなつれない女じゃなく、他のところへ行ったらどうかしら」
にっこり笑って外を示す。しかし神威もにっこり笑い返しながら、「ヤダー」と可愛らしく言った。可愛くないはずなのに可愛く思えるのは疲れてるせいだと、肩を落とす。そうすると、どうしたのと(表面上は)心配そうな声がかけられた。
「疲れてるのかい?」
「ええ、とっても。今日も夕方から仕事だから、すぐにでも寝たいの。とっとと帰ってくれません?」
声に力をこめて、もう一度にっこりと笑ってみせる。同じように神威も笑い、
「えェー」
と、それはそれは嫌そうに告げられた。
(殴りたい)
ぴきりと青筋が一つ立つ。しかし妙は、理性でもって吹き飛ばした。怒りをあらわにすれば、相手の思うつぼだ。それは絶対に避けなければいけない。
「とにかく、私は遊びませんから。あなたもちゃんと仕事に戻りなさい」
「やだネ。せっかく誰にも見つからないように抜け出してきたのに、意味がなくなっちゃうよ」
「……あなたに関わる人みんなに同情するわ」
「そんなあ。俺にも同情してよ」
「だったら、あくせく働いてきなさい。ダッツの百個や二百個お土産に持ってくるようなら、見直してあげますよ」
溢れ出しそうな怒りと睡魔と戦いながら、投げやりに吐き捨てる。いいからもうとっとと帰れと言外に含ませたが、それが相手に通じるのかはわからない。
「ダッツ?」
妙の意識を向き直させたのは、その不思議そうな声だった。何それ、と神威は尋ね、妙は素直に答えを渡す。
「アイスよ。ハーゲンダッツっていう、ちょっと高級な……」
「それを持ってきたら、遊んでくれるんだ?」
「え、ええ。でも、少しじゃだめよ。たくさん買ってきてくれなきゃ」
「ウン、いいよ。それで遊んでくれるなら安いもんだ」
それじゃあさっそく買ってこよう。
嬉々として立ち去ろうとする神威に、妙は思わず声をかけた。
「ちょ、ちょっと」
「何? やっぱり今から遊んでくれる?」
「そうじゃなくて、その、だから」
何を言えばいい、何を言ってしまった、もしかしてとんでもないことを口にしてしまったんじゃないだろうか。考えがまとまらず、妙はただ口を開閉するだけだ。
それでもなんとか、言えたこと。
「来るのなら、明後日にして。その日は休みだから」
どうしてわざわざそんなことを告げてしまったのか、混乱していたからだと妙は自分に言い聞かせる。
「わかった。それじゃあ明後日、お土産持ってくるよ。そしたら遊んでネ」
嬉しそうな神威の様子に絆された気分になったのも、おかしなことを口走ってしまったせいだと、思うことにした。
タメ語になったり敬語になったりあやふやなのは私が悪いせいであってお妙さんは悪くないんです、ハイ
兄ちゃん好き勝手してますが、これも春雨の仕事をよくわかってない私のせいなので以下略
ちなみにお妙さんは兄貴の仕事の内容を知りません。だから働けって簡単に言ってます