< 見せてくんない? >

 いつもと変わらぬ笑顔で、神威が問いかける。

「妙って処女?」

 その場に騒音が響いた。

 激しいなあ、と神威が笑ったのは、それから数時間を要してからだった。妙の手には昼餉に使った包丁と長刀、その他もろもろ(主に刃物系)。

「激しくさせてるのはどこの誰です。なんですかいきなり、セクハラですか。それとも喧嘩を売ってるんですか喧嘩を。タダなら買いますよ、かかってらっしゃい」

 耐え切れずに、妙は殺気を放った。それすらも神威は喜んでしまうのだろうが、唐突なセクハラには理性が持たない。返り討ちに遭おうが、一矢報わずにいられなかった。結果、死んでしまっても後悔はしないだろう。いやいやそんなことはない、道場を復興するまでは死なないと固く誓っているのだ。なんとか死なない程度に報わなくては。そのためにはどうすればいいだろう、そんなことを考える。考えながらも、妙は笑顔を崩さなかった。神威もまた、にこにこ笑ったままでいる。

「うーん。ありがたい申し出なんだけど、今日はこっちより違うほうがいいなあ」
「違うほう? 刃物じゃないほうですか。じゃあ、柔術でもしますか」

 柔術ならば最悪、死ぬとまではいかないだろう。しかし相手が相手である。下手をすればやはり死んでしまいそうだ。それとも、立ち回りさえうまくすれば切り抜けられるだろうか。

「柔術。柔術か。うん、イイネ。組み伏せさせてよ」
「は、」

 何を、と言葉を発するよりも早く、景色が流れた。背中には畳の感触、腿に触れるのは神威の膝だろうか。

「ちょ、ちょっと……」
「質問に答えてくれないかな」
「質問、って」
「だから、妙が処女かってこと」

 あまりにも平然と口にしてくれるので、自然と顔が赤くなった。神威はそれで察したようだ。ふうんと息をついて、納得したように一つ頷く。その行動も、妙には恥辱でしかない。

「初心なんだネ」

 握りしめた拳を突き出そうとするが、手首を押さえられていてそれが叶わない。せめてもと睨みつけるが、神威は変わらず笑顔のままだ。

「刃を沈ませて見る血もいいけど、一度きりしか見られない血ってのは、それはそれは綺麗なんだろうねえ。俺は妙の、そういう血が見たい」
「私は絶対に見られたくないわ」
「そういう反抗的なところも、そそられるよ」

 神威の膝が動く。肌を滑る布に、思わず肩が震えた。くすりと、神威が笑みをこぼす。これまで見てきた表面のものではなく、男を思わせる自分とは違った笑い。神威が獲物を狙う時は、きっとこれと似たような面をするのだろう。

「は……、離、し」
「離さないよ。誰が離すか。見せてよ、全部。血も、肌も、何もかも」

 見つめていれば呑み込まれる、目をそらせば狩られてしまう。

(無理だわ)

 逃げるすべが、見つからない。

むしろ暴走してるのは私です
暴走ついでにぶっちゃけると、兄ちゃんは破瓜の血を見せてくれとゆーとるわけです