< 神威奮闘日記 >

 某月某日、曇り。
 今日は、黒服のお兄さんたちが妙の周りを取り囲んでいました。その中の一人であるゴリラのような男が妙に飛びかかっていたので助けに行こうとしたところ、妙が鉄拳を浴びせ蹴りを入れ線の細い黒服から借り受けたバズーカをぶっ放っていたので、手は出しませんでした。
 今日も妙は絶好調のようです。あの容赦のなさはいつ見てもぞくぞくします。

 某月某日、雨。
 傘を差して道を歩いていると、前方にお侍さんが歩いているのが見えました。暇つぶしに戦いでも仕掛けようかとしたところ、お侍さんの隣には妙がいるではありませんか。お侍さんと妙は相合傘をする仲なのかと思うと、お腹の辺りがじくじくしてきました。なんだか嫌な気分です。僕もお侍さんも傘を差しているせいで、二人の表情がよく見えません。何を話しているのでしょう。どんな顔なのでしょう。楽しそうであれば、僕はとても面白くないです。こんな気分のままで近づいては、妙もうっかり殺してしまいそう。
 僕は足早に、その場を後にしました。

 某月某日、夜。
 今日は朝から気分が乗りません。日記はお休みします。

 某月某日。
 同上。

 某月某日。
 (無記入)

 某月某日、晴れ。
 しばらく江戸から離れていた僕は、その日、久しぶりに妙の家へこっそりと行ってみました。妙は一人でした。鼻歌を歌いながら、洗濯物を干していました。晴天の下、風になびく髪が綺麗です。
 さわりたいなと、僕は思いました。

 某月某日、快晴。
 次の日も妙の家に行きました。今日も妙は一人だったので、僕は堂々と現れてみました。先日に感じた嫌な気分はまだ少し残っていたけれど、そんなものは知らんぷりです。嫌な気分を妙にも感じてほしくありませんでした。
 けれど。

「何かあったんですか? いつもより顔色が優れませんけど」

 神威が顔を見せればどんな時でも開口一番は挨拶を向ける妙が、口を開くと同時に発したのはその言葉だった。神威は目を見開かせて、妙の言葉を聞き返す。
 首をかしげる神威に近づいた妙は、ほんのわずかな躊躇の後、神威の額に手を触れた。

「熱はありませんね」

 額への接触に神威の体がわずかに反応する。それに気づいたのだろう妙は、すぐさま手のひらを引いた。それからいつものような微笑を、改めて神威に向ける。

「お茶でも飲んでいきますか?」

 神威はすぐに頷いた。

 妙はすごいなと、素直に思いました。
 お茶をもらった後、僕はこれまでのことを話しました。黒服の集団のこと、お侍さんのこと、嫌な気分のこと、無気力になった数日のこと。妙は静かに聞いていました。時々、顔が赤くなったりもしたけれど、あれは気のせいだったのでしょうか。
 黒服の集団は、真選組と言うそうです。「近藤」というトップが妙に惚れているらしく、毎日ストーカーのようなことをしてくるらしいです。そのたびに撃退しているものの、彼はまったく諦めてくれないと言っていました。
『土方さんは愚痴を聞いてくれるし、沖田さんもたまに武器を貸してくれるけど、近藤さんに強く言うことはしてくれないのよ。困ったわ。でも、一定の間隔でお菓子を差し入れてくれる山崎さんの存在はありがたいわね』
 笑って話してくれた妙ですが、近藤のみならず、その「土方」やら「沖田」やら「山崎」やらも妙を気にしているふしがあります。油断がならないものです。
『銀さんは、新ちゃんが勤めているところの上司なの。神楽ちゃんがいるから知っているでしょう?』
 確かに神楽のことを頼んだ覚えはありますが、妙のことまでよろしくしてくれるように言った記憶はありません。そもそも、お侍さんたちと一緒にいた眼鏡が妙の家族なんて当時は知らなかったのだから、言えるはずもなかったのでしょうが。仕方ないこととはいえ、やっぱり面白くないものです。
『銀さんは、新ちゃんの職場の一応でしかない上司ですよ。それ以上でもそれ以下でもありません』
 妙はそう言っているけど、どうでしょう。あの時は傘を差していて表情はよく見えなかったけれど、遠目でも二人の雰囲気が悪くないことくらいは察せました。妙がこう言う以上、妙にはそんな気持ちはないのでしょう。でも、あのお侍さんは少なからず妙を気にかけているんじゃないでしょうか。何せあの殺伐とした空気は、まったくと言っていいほど感じなかったのです。ああ面白くない、面白くない。
 だから僕は、

「ねえ、妙」
「なんですか?」
「好きだよ」
「知ってますよ」
「妙は? 俺のこと好き?」
「さあ。どうだと思いますか?」

 質問に質問で返さないでヨ、と眉根を寄せる神威に、妙は小さく笑った。その表情が妙の答えなのだろうと、神威は寄せていた眉を元に戻す。そしてそのまま、距離を詰めた。

 機嫌が直るまで妙を味わうことにしました。
 面白くない数日だったけれど、今日はとてもいい気分で一日を終えられそうです。

そもそも神威が日記なんてものをつけるはずがないだろうということは置いといて
神威がものすごく丁寧に日記を書く人だったら何だかいいなあと思います