< それってちょっとした詭弁だよね >

「うさぎって年中繁殖期らしいよ」
「……それがどうかしたんですか?」

 出し抜けに告げられた内容は、妙を困惑させるのに十分だった。首をかしげて問い返せば、神威もまた同じように首を傾ける。

「わかんない?」
「うさぎの生態を聞かされて、そこから何を悟れっていうんですか」

 私はエスパーじゃありませんと、妙は呆れたようにため息をついた。すると神威はむっとしたように口を尖らせたが、自分の反応は至極当然だろうと妙は意に介さない。言いたいことはちゃんと言葉にしろという空気を、神威に示す。

「……。俺が夜兎なのは知ってるよね」
「ええ。神楽ちゃんが夜兎なのは前から知ってますし、以前、あなたからも聞きましたよ」
「夜兎って、『夜』の『兎』って書くんだよネ」
「それが、どうかしましたか?」
「えェー、これでもまだわかんないの」

 鈍いよ鈍いよ鈍すぎるよ、と神威は頬を膨らませるが、そう言われたところで妙にはまったくわからない。とりあえず、いい年をした青年(年齢ははっきり知らないがおそらく妙と同じくらいだろう)が子供じみた態度を取るのはいかがなものか。妙は再度ため息をついて、改めて口を開いた。

「あなたの言うように、私は鈍いんでしょう。だから、きちんと言葉にして伝えてください。そうじゃないと、いつまで経ってもわからないままです」

 一方が子供なら、もう一方は大人にならなければ物事は円滑に進まない。早々に解決させたい妙は、自分の鈍感さを不本意ながらも認める形で神威を宥めた。
 そうすることで、ようやく神威の真意が掴み取れる。
 彼は言う。

「つまりネ。夜の『うさぎ』である俺も、年中繁しょ」

 最後まで聞くことなく、妙は神威の口を塞いだ。勢いをつけすぎたのか、神威の口元に伸ばした両手はぱちんという軽い音を立てる。

「いひゃいよ、たえ」

 こもった音が、はっきりとしない言葉らしきを吐いた。くちびるを動かして落とされる空気の振動が、妙の手のひらへと直に触れる。思わず肩が震え、手で塞ぐのは早まったかと妙は咄嗟の行動を悔いた。
 すぐさま離そうとするが妙の行動はわずかに遅く、両手首は神威にとらわれてしまう。

「! はな」
「ヤーダ、ネ。俺の言いたいことが伝わったみたいなのに、離すわけがないじゃないか」

 抗う間もなく、捕まえられた手首ごと引かれた。

「さあ、妙」

 妙の体はいとも簡単に、目の前の男の懐へと引き寄せられる。
 楽しもうヨとささやいて、神威は妙の首へと口づけた。

こじつけだろうがチャンスは逃さない兄ちゃん