< 不意打ちするほうがずるいと思います >

 予想していたのはワンピース。ワンポイントの入った白地か、暖色系をまとってくるんじゃないかと思っていたのだが。披露された水着は、ビキニタイプでミニスカート付きのセパレート。その上、黒地ときたもんだ。

(こりゃあ、予想外でぃ)

 知らず鳴らしたのどの音は、どうか相手に聞かれていませんようにと、沖田は珍しく神に祈った。

「どうかしら、沖田さん。神楽ちゃんと一緒に選んだ水着なんだけど」
「お似合いでさ、姐さん。一つ不満を言うなら、お見立てにゃあ俺を呼んでほしかったことくらいですかねぃ」
「ふふ。いくら沖田さんのお願いでも、神楽ちゃんとのデートはやめられませんから。それに、沖田さんとだったらこういった水着にならなかったかも知れないでしょう?」

 婉然と微笑んで、妙がくるりと体を回す。動きに合わせるように、黒いプリーツスカートがひらりと揺れた。そこから伸びる足はすらりとしており、思わず視線が追いかけていく。
 それに気づいたのか、妙がおかしそうに笑った。

「どこ見てるんですか?」
「姐さんのおみ足を」
「……平然と言わないでください。こっちが恥ずかしくなります」
「聞いたのは姐さんでさ。俺は素直に答えただけですぜ」
「そうですけど……。い、いいから泳ぎに行きましょう」

 ほら早く、と急かす妙に沖田も笑って答える。実は心臓が結構な音を立てていることは、気づかれずにすみそうだ。
 それはいいのだが。
 海への距離を縮めながら、沖田はちらりと周りに意識を当てた。先ほどから感じていたが、どうやら気のせいではないようだ。
 視線が、痛い。
 十中八九、妙へのものだろうことは、火を見るよりも明らかだった。

(まあ、姐さんのこんな姿を見りゃ、気にならずにいられねえ奴も出るだろうがねぃ)

 そろりと息をついて、沖田は妙に視線を当てた。少し先を行く妙の後ろ姿は、武道を嗜んでいるだけあって整然としている。華奢とは言えなくとも、しまりのある体つきは綺麗だった。いつもは着物に覆われた素肌は白く、黒の布地が映えている。加えて顔も整っているとなれば、他の男どもが食いつかないわけがない。

(まあ確かに。こうなる結果がわかってるから、ああいう系統は俺が買わせちゃねえだろうなぁ)

 もしかしたら拝めることのなかった姿であり、それを目にできたことは眼福ではあるだろう。ほんの少し、癪でしかないがあの水着を買わしめた神楽には、感謝してもいいのかも知れない。
 かといって、素直に喜べない状態であるのも事実。ならば妙を海に隠せばいいかと、沖田は歩く速度を上げた。
 それからは周りの目を気にすることなく、沖田は妙との海水浴を楽しんだ。泳ぐ機会はあまりないと言っていた妙だったが、もともとの運動神経のよさからか、沖田が少し教えるだけでこと足りた。泳げない妙イコール頼りにされる自分、という図式も考えていたが、一緒に泳げるならそれはそれでいいかとも沖田は考え直す。どちらにしろ楽しいことに変わりはないのだ。だったらそれでいいだろう。
 泳いでは浜辺で休み、時折やってくる妙目当てのナンパ男を打ちのめす。それを何度か繰り返すうちに、空が橙色に染まり始めた。

「……大分日が傾いてきやしたね。そろそろ着替えやすか」
「そうね。たくさん泳いだから、疲れちゃったわ。今夜はきっと、よく眠れそう」
「姐さんさえよければ、俺が添い寝してさしあげますぜ」
「ふふ。それは新ちゃんが許さないんじゃないかしら」

 拒否のように見える返答は、けれど妙自身のものではない。新八がいなければ許してくれるのだろうかと考え、明言してくれない妙にもどかしさを覚えた。

「姐さんはずりぃや」
「あら、ごめんなさい」
「……」

 笑い混じりで謝られても、誠意は感じられない。それでも自分は許してしまうのだろう。やっぱり姐さんはずりぃや、と沖田はもう一度繰り返した。

「沖田さんも、明日から仕事なんでしょう?」
「ええ、まあ……」
「? 沖田さん? どうかしました?」

 帰り道の他愛ない会話中、沖田は妙に視線を当てた。急に見つめられ首をかしげる妙に、そういえば気づいたんですが、と話を振る。

「姐さん、意外と胸ありやすよね」
「……はい?」
「旦那がまな板だまな板だ言ってるもんだから、そんなにないんだろうかと思ってやしたが。いやいや、なかなか」
「……沖田さん。ここは一思いに殴ってもいい場面よね?」

 にっこりと笑って、妙が右に鉄拳を作る。いつもなら即座に謝罪するのだが、この時の沖田は逆に笑いかけた。

「いんや、姐さん。ここは、旦那に全部しられてるわけじゃなくて俺が喜ぶ場面でさぁ」
「え」
「実際に見なけりゃ、大きさなんてわかりやせんよ。もしも旦那の発言とまったく同じだったら、俺は平然としちゃいられなかったですぜ」

 沖田の言葉に、妙は幾ばくかの怒りを覚えたようだ。眉根を寄せて、どういう意味ですか、と彼女は問う。その怒りをも流すように、沖田はさらに深く笑んだ。

「まあ、世の中には見ただけでサイズを言い当てるお人もいるんでしょうしね。責めてるわけじゃありやせんよ」
「……本当かしら」
「だってそうでしょう。姐さんが旦那とできてるんなら、俺の誘いは受けないでしょうし」

 こんなことも許しやせんでしょう?

 告げて、不機嫌の残るくちびるへと熱を落とした。

お妙さんの胸はそれなりにあると思う。そしてきっと美乳なんだよ(何の主張)
あと、鍛えてるからには普通の女性より肉付きがしっかりしてるんじゃないかと