< かきねのかきねの >

 焚き火をする時には、風向きに気をつけましょう。

「場所が悪いと煙がぶち当たりますぜ」

 沖田の向かい側に立つ相手へ声をかけると、けほけほと小さな咳と共に途切れ途切れの声が返ってきた。

「そういうことは、先に、言っ……くださいっ」

 運悪く、気管にまで入り込んでしまったのだろうか。薄れた煙の先にある妙の両目からは、雫がこぼれ落ちそうになっている。涙に濡れた黒曜の目が綺麗だと、沖田は思った。

「すいやせん。てっきり姐さんは知ってるものだと」

 そんな心情を隠して、しれっと告げる。妙の表情が、苦しげながらも怒ったものに変わった。

「そちらに移動したのは、煙を避けるためだったんですね。何も言わずにさっさと行ってくれるなんて、けほっ、配慮がなってないわ」
「そりゃ失礼。しかし姐さん、しがない芋侍に女性への配慮を期待するなんて間違ってますぜ」

 笑いを噛み殺しながら、沖田は煙のただ中にあった妙の腕を緩く引く。逆らうことなく連れられた妙は、それでも寄せた眉根を戻さなかった。まだ乾かない潤んだ目を、わずかばかり高い沖田の顔へと向けて言う。

「武骨者は武骨者なりに、気は遣えるでしょう」
「……きっついお言葉ですねぃ」

 上目遣い、しかもその目は潤んでいるという、結構なシチュエーションだというのに。そのくちびるからこぼされる言葉の内容は、よさげな雰囲気というものを見事にぶち壊してくれる。
 少し浮ついた沖田の気持ちは、かなりの早さで落下した。
 隣の女は、簡単にいい空気を持ってきてはくれないようだ。そうなってしまうだろうことは、最初から薄々感じてはいたが。沖田は一つ、ため息をついた。

「まあ、それが姐さんですからねぃ」
「? 何がですか」
「いえ、独り言でさ。それより姐さん、涙はそろそろ収まりやしたか?」
「! ……泣いてませんよ」

 何気ない質問だったが、涙という単語に妙はひどく反応した。問いかけると同時にささっと目元に手をやって、軽く拭ったかと思うと否定の言葉。おや、と思った後で、沖田はにやりと笑ってみせた。

「そうですかねぇ。それにしちゃあ、ずいぶんと」
「おき、」

 隣にあった女の肩を抱いて、引き寄せる。妙も構えていなかったので、その肩は簡単に抱き寄せられた。
 そうして妙が何かを言う前に行動を起こす。伸ばした舌先で拭われただろう箇所をなぞって、

「しょっぺえですぜ」

 涙の跡を辿っていった。

題名は童謡「たきび」から
「たきび」と言えば正式なものではなく替え歌の方を思い出してしまう私はクレ○ンしんちゃんの愛読者です(銀魂関係ねえ)