- 弐 -

 妙と近藤のやりとりを見たのは偶然と言えば偶然、必然と言えば必然だ。できることなら、銀時はあんな場面を見たくなかった。しかし、見たおかげで妙を動揺させることができたとも言える。
『無理はいけません、お妙さん』
 聞くつもりはなかったが、聞こえてしまった近藤の言葉。
『今すぐにでも、体を休ませるべきです。叶うならこの近藤勲、お妙さんを道場まで送り届けて……』
 最後まで言い切らせてもらえず、近藤は妙に追い返された。今も鮮明に思い出せる、動揺した妙の表情。隠し事を暴かれたという愕然は、もしかしたら銀時が初めて見た妙の顔だったかも知れない。
 近藤の言葉で、妙が体調を崩しているのだと知った。妙に会おうとすまいるに行ったものの、近藤に先を越されて咄嗟に身を隠したのが理由で、妙に触れることなくその事実を知ることになった。
 知って、銀時はすぐさま自分に問いかけた。

(俺なら、気づいたか?)

 妙に触れて、具合が悪いことに気づけただろうか。気づく自信が、自分にはあるだろうか。考えながら、そっと妙の様子を窺った。
 妙が愕然としたように、銀時もまた愕然とした。妙の頬が淡く色づいている。

(熱のせいだ)

 無理に体を動かしたせいで、熱が上がったのだろう。そのせいだと、銀時は思い込んだ。虚飾の殻を破った近藤に、妙が心を動かされたのだと信じたくなかった。
『あんま無茶しねえように、釘をさしに来たってとこだ』
 だから銀時は、さも自分が気づいたように言葉を選んだ。すまいるで出会ってすぐに、妙の異変に気づいたのだと。近藤の発見を奪った。
『確かに、自分でも珍しいとは思ったぜ。ここに来りゃ、オメーにぼったくられるのは目に見えてたのにな』
 嘘を重ねた銀時の言葉は、それでも彼女には衝撃だったようだ。妙は、近藤に指摘された時と同じように目を見開いた。意志の強い目が揺らいだのを、銀時は見逃さなかった。

「卑怯だな、銀時」

 夜の街に、呟きを落とす。ささやくそれは誰の耳に届くこともなく、己を抉るように痛みを走らせる。

(でも、言わずにいられなかった)

 咄嗟の行動だった。妙の気持ちが、少しでも近藤に動くようなことが許せなかった。

「放っておきゃよかったんだ。ゴリ同士、お似合いじゃねえか」
(放っておけるか)

 口に出して自分に呼びかけ、心の中でそれに答える。

「あの時みたく、依頼なんてされてねえだろ。困ってるなんて、お妙は言ってないんだ」
(馬鹿言え。黙ったまま見てるなんざ、耐えられねえんだ)
「なんでだ?」
(なんで?)
「どうしてお前は……俺は、放っておけなかった?」

 何度か繰り返した自問自答。最後の質問に、銀時が出した答えは。