- 参 -

 屯所の門を叩いてきた人物は、その場には似つかわしくなかった。単身でここに来たのはおそらく初めてだろう相手に、近藤は口角を上げる。

「どうした、万事屋。珍しいな」
「お前に話があって来た。なんかおごれ」

 遠慮のない態度に、近藤は笑う。何がいいと聞くと、甘いモンと返ってきた。

「一度しか言わねえからよく聞いてろよ。俺はお前のこと、それなりにいい男だと思うぜ」
「ぶっ、ど、どうした万事屋! おおおお前、何か悪いもんでも食ったのか!?」

 慌てふためく近藤に、銀時は食ってないと答える。平然としているところを見ると、近藤の反応をある程度は予想していたのだろうか。
 二つ目のパフェに手を伸ばした銀時は、先を続ける。

「定職に就いてるし、それなりに稼いでるし、顔はアレだが内面は悪くねえし。お前と結婚すりゃ、あいつも普通の幸せを手に入れられるだろうよ」
「……あいつ、とは、お妙さんのことか?」
「お前があいつ以外に目ぇ向けてなけりゃ、そうだよ」

 近藤はぜんざいをつついていた箸を、テーブルに置いた。表情を改め、銀時に目を当てる。それでお前は、と近藤は問い返した。

「お前は、俺とお妙さんの間を取り持ってくれるつもりなのか? 話とは、そういうことなのか」
「……それもいいかもな」

 ぽつりと呟いた銀時は、すくい取ったクリームを口に含んだ。そのままガラス窓の向こうを見やる。外の景色を見ながら、違うどこかに焦点を当てているようだ。

「そうできたら、よかったのにな」

 スプーンを咥えたまま話したせいで、銀時がなんと言ったのか近藤には聞き取れなかった。何を言ったのか聞き返すと、銀時は近藤に視線を戻す。

「恒道館に行こうぜ。あの後、お妙が倒れたらしい」

 近藤は目を見開く。「あの後」というのは、近藤がお妙の不調を言い当ててからのことだろうか。なぜ銀時がそのことを知っているのか疑問に思うも、近藤には妙が倒れたということのほうが重大だ。
 すぐにでも出ようとする近藤に、銀時が制止をかける。なんだ、と怒鳴ると、支払いよろしく、と請求書を渡された。