- 肆 -

 白い髪の男には強い信頼を置いていた。普段はどうしようもないのに、時に見せる芯の強さが妙の目を離そうとしてくれない。近くにいるのは、居心地がよかった。
 局長なのにストーカーである男には、ほとほと困っていた。しかし真摯すぎる男の思いに、拒み続けるのが無理であることを妙は感じ取っていた。
 妙は、銀時も近藤も、嫌いではなかった。けれどどちらか一人に思いを寄せるには勇気が足らず、結局どちらつかずの現状を維持している。
(だめな女ね)
 浅はかな期待をし続けながら双方のそばにいる自分に、妙は嫌気が差していた。

 二人の男がたった一人の女を巡って争うなんて馬鹿らしい。だから銀時は、その線を踏み出さないでいた。
 妙のことは嫌いではない。妹のように、時に口うるさい母のように思い、接していた。家族のような位置は楽だ。どれだけ近くにいても、親愛が慕情に変わることは決してないのだから。一番遠く、一番近い間柄、なんて心地のいい。
(どこで道を間違えたんだ)
 妙から向けられる信頼を悪く思っていなかった。それ以上を望むことなど、ありはしないと思っていたのに。

 すべての始まりは、すまいるで愚痴った時からだ。菩薩のような言葉を、可憐な人が自分に向けて言ってくれた。それが仕事であったとしても、確かに自分は救われたのだ。惹かれないはずがないだろう。
(俺はあの人のためなら、なんだってできる)
 ストーカーと言われようと、ゴリラだと言われようと、妙のそばにいられるなら、彼女の力になれるなら。どんな汚名を被ろうが、傷を負おうが構いやしない。妙が妙のままであれるなら、あの人が心から笑えるのならば。命を落とすことすら厭わないだろう。