< 「もちろん、そのつもりだよ」 >
えいりあんはんたーになってからすぐ、地球を離れた。
一年後に地球へ戻って少しの休暇、すぐに地球を離れる。そしてまた一年。戻って休息、すぐに離れる、それから一年。
気づけば既に三年くらいの月日が経っていた。
そしてまた神楽は、地球へと戻ってきた。第二の故郷とも言える場所、そして神楽が一番安心できる場所へと、
「ただいまヨ、新八!」
大きな声を投げ入れた。
今回の仕事はどんな感じだった?
星海坊主さんは相変わらず神楽ちゃん第一なのかな。今日のお泊り、ずいぶん揉めなかった?
神楽ちゃん。
ね、神楽ちゃん。
さびしくなかった?
志村邸の居間に腰を落ち着けた神楽は、同じく隣に座った新八から矢継ぎ早に問いかけられる。けれど神楽は、その言葉を素直に受け入れた。地球を離れて戻った日には、新八は必ず同じ質問を投げかけるので、習慣のようなものになっていたのだ。
『どんな感じだった?』 いつも通りヨ。
『星海坊主さんは相変わらず?』 相変わらずネ。そろそろ鬱陶しいアル。
『ずいぶん揉めなかった?』 揉めるのはいつものコト、でも言い負かしてやったネ。
『神楽ちゃん、ね、神楽ちゃん。さびしくなかった?』
まるで誘いかけるような甘い声音に、神楽は口元を緩めた。さびしくなかった、その質問だけにはそれまでと違う答えを返す。
「寂しくなんてなかったネ。私を誰だと思ってるカ、新八」
「え」
「地球をちょっと離れたくらいで寂しがるほど、子供じゃないアル」
「……そう、なんだ」
二年前、神楽は「寂しかったヨ」と答えた。その返答に新八は嬉しそうな表情で「僕も」と言った。言って、新八は神楽を抱きしめた。
一年前は、「ちょっとだけ寂しかったネ」と答えた。新八は少し複雑そうに「僕は結構寂しかったよ」と言って、神楽の肩に頭をうずめた。
そして今日、神楽は寂しくなかったと、言い切った。
神楽の予想通り、新八の表情は暗い。きっと自分ばかりが相手を思い、縋っている事実に落胆でもしたのだろう。あれから三年も経ったのに、新八はとてもわかりやすい。顔や体はそこそこ成長しているというのに、中身はまだまだなようだ。
神楽は苦笑した。その後で、満面の笑みを浮かべる。
「だって、ここに帰れば新八がいることを、私は知ってるモン」
「……え、わ! 神楽ちゃ」
驚きに目を見開かせる新八に構わず、神楽は相手の懐へと飛び込んだ。慌てながらも新八は抱き返すのを忘れない。当たり前のように身を包んでくれることに、神楽はますます顔が綻ぶ。
帰ってきた、ああ戻ってきたのだと。
このぬくもりが、神楽に安堵をもたらす。
「……しばらく会わない間に、ずいぶん成長しちゃったね」
「新八は未だにダメガネのままあるナ」
「そうみたい。つい最近も、姉上にちょっとしたお叱り受けたよ」
その様子がありありと目に浮かび、神楽は笑った。
「綺麗になった」
「ヘ」
思わぬ賛辞に神楽は固まる。まさか突然そんなことを言われるとは思っていなかった。
目を見開かせて顔を上げると、薄く微笑んだ新八の表情がそこにある。それまでの弱々しさがどこへいってしまったのか、今の新八には精悍さすら感じた。
「しんぱち」
「あんまり綺麗になりすぎると、今度は違う意味で心配だよ。僕」
「…………ッ」
聞き慣れない口説き文句のようなものに、神楽はいよいよ慌てふためいてしまう。頬にのぼる熱を抑えられず、冷静さを取り戻せない。
どうしよう、と神楽は焦った。
顔があつい、心臓がうるさい。自分からひっついたはずなのに、今はすぐさま離れたい。
「離れないでよ神楽ちゃん」
考えを読まれたように、先手を打たれた。背中に回された新八の腕は、おいそれと神楽を離そうとしない。新八、と呼ぶ声は掠れていた。
「僕はまだ君と違って、ダメダメな寂しがりなんだから。放っておかれたら、泣いちゃうよ」
「どどど、どこまでダメガネアルか! そんな、そんなカオでそんなコト言うのは卑怯アル……!」
混乱している状態では、何を口走ってしまうかわからない。現に神楽も、あまり正常とはいえない言葉ばかりを放ってしまった。
そんな神楽に、目をまたたかせた新八がにっこりと笑う。
「神楽ちゃんがここにいてくれるなら、僕はダメガネのままでも卑怯でもいいや」
そういうわけだから寝よっか。
突飛すぎる提案に、何がどういうわけなのだと神楽は反論した。どういうわけも何もお仕事と移動で疲れてるでしょうと、もっともなことを言われ、神楽はそれ以上の抵抗を諦めた。
一番安心すると思っていた場所は、年々、安心できなくなっている気がする。
けれどそれでも、やはり神楽はここへ帰ってくるのだろうと思った。
だから神楽は言うのだ。
「……話したいこと、いっぱいあるネ。いっしょの布団で寝てもイイ?」
なぜなら新八の要求を、神楽は嫌とは思わないのだから。
何気に未来捏造
ほとんどが遠距離恋愛だけど、遠距離だからこそ再会した時のイチョイチョっぷりは半端ないといい