< 悩む君と焦る僕 >

「ウーン」

 珍しく何かを悩む神楽を見つけ、新八は軽く目を見開いた。それからすぐに台所へ向かい、お茶の用意をする。
 二つの湯飲みが並んだお盆を持って神楽の元へ赴いた時も、まだ少女は考え込んでいた。

「はい、神楽ちゃん。お茶どうぞ」
「ア、新八。珍しく気が利くアルな」

 神楽の反応に新八は苦笑する。上から目線の物言いはあまり快く受け入れられたものではないが、神楽は大概がこんなものだ。今さら腹を立てるほどでもない。それにどちらかというと、

「珍しいのは、神楽ちゃんのほうじゃない」

 新八は思ったままを告げる。神楽が眉を上げた。「どういう意味アルか」と怒気を帯びた声に、そのままの意味だよ、けろりと返す。

「人目を憚らず悩む神楽ちゃんって、珍しいよ。いつもは隠そうとするのに」
「それは、時と場合によるアル」
「ふうん……。じゃあ、今は切羽詰まってるってこと?」
「まあ、そんなところネ」

 答えるや否や、神楽は再び悩み始めた。うんうんと、先ほどよりも眉根を寄せている。ならばと新八は口を開いた。元からそうするつもりだったことを、舌に乗せて音にする。

「僕でよければ力になるよ、神楽ちゃんの悩み事」
「エ?」
「少しでも助けがあったほうが、ないよりはいいでしょ? 僕、神楽ちゃんの力になりたいし」
「……新八」

 ね、と笑いかけると、神楽の顔がうつむいた。髪に隠れて見えにくいが、その頬はどことなく赤い。ややあって頷いた神楽に、新八は申し出てよかったと心から思った。

「それで、どんな悩みなの?」
「新八の子を産むとなると、どんな子供になるか予想してたアル」
「へえ」
「自分の子供には眼鏡をかけてほしくないネ。でも、新八の目が悪くなったのは姉御の手料理が原因だから、それに気をつければいいアルかと思ったけど」
「うん。……うん?」

 普通に聞き流してしまったが、はたと気づき新八は聞き返した。ごめんかぐらちゃん、もういっかいいってくれないかな。神楽はさらりと、同じ言葉を新八に告げる。

「だから、私が新八の子供を産んだらどんな子に」
「ストップストップ、って、え、かかかか神楽ちゃ……!?」
「何興奮してるアルか。このケダモノが」
「けけけけけだも、ケダモノってそうじゃなくて、僕は別に興奮したとかそんなんじゃ いや興奮しなかったといえば嘘になるけどえええええちょっえええええ!?」

 混乱が混乱を招き、新八の思考回路は破裂寸前だった。落ち着け落ち着くんだとりあえず落ち着け僕! と言い聞かせ深呼吸を繰り返し、新八はどうにか息を整える。そしてちらりと神楽に目を当て、子供、という単語を彼女に向けた。

「そうアル。私と」
「僕の、子供の、話?」

 神楽が頷く。
 新八は音を立てて顔を赤くさせた。

(これって「そういうこと」を催促してるって思っていいのかな……)