< その勝ち誇った顔むかつくんですけどォォ >

 万事屋にやってきたのは、両肩にみつあみを乗せた桂だった。いつもと違いすぎる髪型に、銀時は口に含んでいたいちご牛乳を噴き出してしまう。

「ああああ最後の一口がもったいねええェェェェ!!」
「もったいないと思うなら吐き出すな。髪にかかるところだったではないか、汚い」

 銀時の放った薄紅の飲料(だったもの)を着物の裾で防いだ桂が、眉をひそめてちくりと言う。だったら吐き出させるような格好してくるんじゃねえだの、髪が汚れるなんざ女々しいこと言ってんじゃねえだの、言い返す言葉は多分にあれど。銀時はそのどれもを、音に変えなかった。
 ただ、じとり、桂の様相を見る。

「なんだ、銀時。いちご牛乳のような軟弱な物を弁償する気は、俺にはないぞ」
「……ちっ。まあいいや、なんの用だよ」
「うむ。銀時に、というより、ここの者たちに届け物だ」

 そう言った桂は、ふろしき包みを掴んでいるほうの手を上げた。視線で中身を問う銀時に、桂は「まんじゅうだ」と答える。

「勝手に貴様一人で食うなよ。これは万事屋の三人分なんだからな。む、そういえばあの大きな犬もいたな。では四人分か?」

 ソファの間にあるテーブルへと包みを置きながら、桂はぶつぶつと呟く。その様子を見るともなく見ながら、銀時は妙な既視感を覚えた。
 これと似たようなことを、どこかで体験した気がする。どこだろう、なんだろう。記憶をたぐり寄せて、それが桂の台詞であることに気づいた。
 そうだ、これは。

(いつだったか、お妙も同じようなことを言ってなかったか)

 それは先日か、もっと前だったか。正確なことは覚えていないが、知り合いからもらった和菓子の詰め合わせを妙が万事屋へと持ってきたのだ。
 その日、神楽と新八は出かけていて銀時は一人だった。眠りこける定春を目の端に入れながら、ぼんやりしていた昼の午後。今日の桂と同じように、妙はやってきた(ちなみに妙はいつもと同じ髪型だった)。それから「届け物がある」と言って包みを見せ、
『銀さん一人で食べないでくださいね。これは万事屋みんなの分なんですから』
 そう言った。

(……だから、どうしたってわけじゃねえけど)

 これは「似たようなこと」であって、一言一句が「同じ」わけではない。似たようなことは、この世界の日常にごまんと転がっているのだ。そんなことはすべて、偶然ですませられる。
 しかし。
 だが、なぜか。
 ……気になる。
 気になるといえば、桂の髪型もそうだ。突っ込む気は失せていたが、銀時はそれを口にすることにした。嫌な予感が、しなくもない。

「おい、ヅラ」
「桂だ。なんだ、銀時」
「その髪、……誰がやった」

 一拍おいての問いかけは、桂の目をやや見開かせた。銀時の様子がいつもと違うことに気づいたのだろうか。目の前のお下げ男は、しばし銀時に視線を向ける。
 おそらくは短い時間、けれど銀時にはやけに長く感じた一時。やがて桂は、口元を緩めた。

「お妙どのだ」

 返ってきた答えに、銀時は顔をしかめざるを得なかった。嫌な予感が見事に当たってしまったこともあり、桂の微笑がどこか勝ち誇ったように見えることもあり。
 銀時の反応を気にかけず、桂は先を続けた。

「ここに来る前、道場に寄っていてな。このまんじゅうは俺からではなく、お妙どのからの差し入れだ。もう一度言うが、独り占めするなよ」
「……てめーはちゃっかり、お妙との時間を独り占めしてたくせにか?」

 苛立ちのまま言い返した銀時に、桂は否定もせずに笑みを深める。それから肩に乗るみつあみに触れ、

「なかなか、有意義な時間だった」

 しゃあしゃあと告げられた。

和菓子詰め合わせのことを話の種としてお妙さんから聞いた桂→そうだ似たようなことをやってやろう→万事屋に参上
みたいな桂の牽制的なものですが説明しないとわかりませんね(アイタタタ)