< 何事も直球勝負が物を言うかも知れない >

 たのもう、と声が聞こえる。
 最近ではもうずいぶんと馴染んだ音に、妙は口元を綻ばせた。

「こんにちは、桂さん。今日はいい陽気ですね」
「うむ。日向ぼこりにはちょうどいい。縁側を借りてもいいだろうか」

 包みに巻かれた紐を持ち上げて、桂が問いかける。妙は微笑んで、どうぞと言った。

「甘味特価ふぇあ、ですか」

 縁側に並んで座りお茶とお茶菓子を楽しんでいると、妙は桂から一枚の紙を渡された。受け取るまま、その広告らしきに書かれている大きな文字を読めば、桂が頷く。

「そうだ。先ほど商店街を通っていた時に、ちらしを渡されてな。今週末に開かれるそうだ。なんでも男女二組で行けば、さらに割引してくれるらしい」

 そこまで言って、桂は湯呑みに口をつける。その後で一息ついて、話を再開した。
 桂は、一緒にどうだ、と妙に言う。

「……はい?」
「俺と一緒に行かないか。おなごは甘い物が好物だとよく聞く。お妙どのは違うのか? それとも、都合がつかないだろうか。何せ急だったからな。ならば仕方ないが」
「いえ、あの」
「では、銀時にでも渡してくるか。割引券が付いてるから、捨てるのはもったいない」
「桂さん」
「残念だが、今回は諦めよう。また今度来る時には誘いを受けてもらえるように痛たたた」

 自己解決されるのを阻むため、妙は桂の耳を引っ張った。さほど力は入れていないが、こちらへ意識を向けさせるために、そこそこの力はこめている。
 そのおかげか、痛みを訴えつつ桂は妙に向き直ってくれた。

「人の話は、ちゃんと聞いてくださいね」
「わかった。しかしお妙どの。気を向かせるためとはいえ、耳はやめたほうがいい。まるで浮気現場に居合わせた妻が、夫を引きずっていくさまを思い浮かべてしまう」

 不貞行為を彷彿とさせるのは何かとよくない。どこか指摘がずれているが、桂らしいといえばらしかった。妙は思わず笑ってしまう。
 それから少し考えて、でも、と呟いた。

「私でいいんですか?」
「何がだ」
「その、男女二組の相手が私で、いいんでしょうか」

 他に誰か行く人がいるんじゃないか、と暗に告げる。
 それを悟ったのか悟っていないのか、桂は首をかしげながら答えた。

「? お妙どのがいいから、ここに来たのだが」

 あっけらかんと桂は言う。さらっと、ずばっと、ストレートな物言いは妙を驚かせた。

「どうしたお妙どの。顔が赤いぞ。……照れているのか?」

 わずか、桂の口角が上がる。桂にしては珍しく、揶揄を含んだ笑みだ。
 からかわれているのだろうか。それとも妙の目にそう見えるだけで、桂の笑顔は純粋なものなのだろうか。判断がつかずに、妙はうつむいてしまう。
 小さな息が、その場の空気を揺らす。桂がまた笑ったのだろうか。

(……もう)

 優位に立たれたままというのは、居心地が悪い。妙はうつむかせていた顔を上げて、桂を見すえた。

「照れていません」
「しかし、顔が赤い」

 桂はすぐに反論するが、反論されることはわかっていた。妙は言葉に詰まることもなく、先を続ける。

「照れていませんよ。喜んでいるんです」
「…………それなら、何よりだ」

 結構な沈黙を桂から受け取ることができたので、妙はようやく心から笑った。

下手な駆け引きをしない分、お妙さんも素直になれると思います