< 髪を梳きましょう >

「ルーク。貴族とあるものならば、身だしなみも必要ですわ」
「んだよ、やぶからぼうに」
「さ、後ろをお向きなさいな」
「は?」

 ルークはナタリアを凝視した。質問にも答えずに、この女は何を言っているのだろう。対するナタリアはルークの言い分など聞く気はない様子で、しきりに背を向くように言い続ける。

(ったく、めんどくせー)

 かといって反論するのも面倒だ。仕方ねえなとぼやきながら、ルークは背を向ける。向けた途端、髪に触れた指の感触に驚いた。

「……!」

 思わず振り返ろうとすると、ナタリアから制止の声がかかる。

「ルーク、動かないでくださいませ」
「う、動くなって、お前、何を……」
「お父様から櫛を頂いたのですわ。せっかくですからルークの髪を梳いてさしあげたいと思ったのです」
「せ、せっかくって、別に俺のじゃなくて自分の髪でやりゃいいだろうが」
「あら、人の好意を無下にするものではありませんわ。それに、ルークの髪は綺麗ですもの。きちんと整えないともったいないでしょう」

 だからじっとしててくださいねと、ナタリアがどことなく嬉しそうに言うものだから、結局ルークはそのままの姿勢で数分ほど耐えることにした。

「さあ、これで綺麗になりましたわ。やっぱり身だしなみは整えておくものですわね。今まで以上に凛々しくなりましてよ、ルーク」
「ばっ、馬鹿なこと言ってんじゃねえよ」
「お照れになることないのに。ふふ。ルーク、髪梳きはどうでした? 痛くありませんでしたか?」
「……別に」

 梳かれる感触は決して悪いものではなかった。それを素直に言うことが、憚られただけで。

やぶからスティック