< 誰を見ている? >

 あの女の目に映る俺がいる。明るい緑色の目は、宝石のように綺麗だ。そう思ったところで正直に言う気はないし、そもそもそんなことを言って何か得があるわけでもなし。言うだけ無駄だ。たとえその色の持ち主が喜ぶとしても。

「ルーク? わたくしの顔に何かついていまして?」

 睨みつけるようにじっと見ていようが、この女は別段、照れた様子もなくただ不思議そうに聞き返すだけだった。面白くない。婚約者というなら、女が男に見つめられているというなら、もっと動揺してもよさそうなものを。

「……なんでもねえ」
「なんでもなくはないでしょう? 殿方ならば、言いたいことははっきりとお言いなさいな」
「っ、なんでもねえって言ってんだろ。年上面すんじゃねえよ!」

 胸くそ悪い、と吐き捨てる。

「俺は寝る。用がないならもう帰れ」
「ルーク……」
「帰れよ、俺は気分が悪いんだ」
「……わかりました。お体、大事になさってくださいね」

 心配そうな顔がこちらに向けられた。ずきりと胸が痛んだ気がして、顔をそむける。目を合わせまいとしていると、やがて静かに扉の閉じる音が続いた。

「いくらなんでも、言いすぎじゃないか。ルーク」

 それからしばらくして、かけられる馴染んだ声に顔をしかめる。俺はベッドにうつ伏せたまま、うるさい、と返した。

(そんなこと、俺が一番わかってる)

 それでもどうにもならないのだ。あの女の視線は無性に苛々する。俺を見ながら、あれは絶対に俺を見ていない。それが悔しい、腹立たしい。俺のそばにいながら、あいつは、俺の「何」を見ようとしているんだ?

「……おれをみればいいのに……」

 絞り出すような言葉は、窓枠に座っているガイに聞こえてしまっただろうか。

無意識に「ルーク」を探してるなっちゃんと、それが気に入らないお坊ちゃん