< ちょっとずつ、上達 >

 今日も今日とて、口の中には凄絶な味が広がっていく。そもそもこれを「味」と称していいものだろうか。そうするにはあまりにも乱暴すぎる気がする。つーか、味そのものに失礼だ。

「ルーク、今日はどうですか?」
「……」
「ルーク?」
「……」

 返事なんてできる状態ではないので、ひたすらに黙っておく。やがて察してくれたのか、ナタリアは肩を落とした。

「また、だめですのね……」
「……きのう、よりは」
「え?」
「すこしだけましだ」

 昨日も昨日で激烈だったモノに比べると、今日は幾分か激しさは落ち着いている。口内は少し痺れているが、本当のことを口にした。ナタリアの表情が、さっきよりは安堵したものに変わる。

「そ、そうですか……よかった」
「ま、ちょっとずつだけど腕は上がってるってことだな」
「はい。ありがとうございます、ルーク。わたくしもっと頑張りますわ!」

 満面の笑顔をナタリアが向けた。正面から見るのは照れくさい。ほどほどにな、と言いながら顔をそむけた。そむけながらも、言葉を続ける。

「頑張るのはいいけど、俺以外にはやるなよ」
「わかっていますわ。わたくしの料理はあなたのためだけに、ですわよね」
「そーいうこと」