< さわり心地がいいからな >

 アトワイトと会話をしているハロルドを見つけた。傍から見ればなんともなごやかで、鮮紅色の彼女がマッドなサイエンティストとは誰も思わないだろう。
 その彼女が、いつもと違って羨ましそうな表情をしていた。思わずディムロスはその顔を食い入るように見つめてしまう。その流れで、聞き耳を立てる形になった。

「アトワイトの髪、さらさらで綺麗よね」
「あら、ハロルドの髪だって綺麗な色をしているわ」
「ありがと。でも私くせっ毛だから、アトワイトみたいなストレートに憧れてるのよ」
「それは初耳だわ」
「意外?」
「少しね」

 ふふと、二人は笑い合っている。その会話を聞いたディムロスもかなりの驚きを覚えていた。まさかハロルドが他人を羨むなど、ないと思っていたのだ。

(だが……)

 二人から姿を見られないよう、壁に背を沿わせていたディムロスは考える。
 だが。
 だが、なんだ?

「……ディムロス? あんたこんなところで何してんの」

 思考に耽っていたからか、ディムロスはハロルドの声に驚かなかった。ただ、考えていたことをそのまま告げる。盗み聞いていたことなど念頭にも置かず。気づいたら口走っていた、というのが正しいだろうか。

「俺はハロルドの髪質のほうが、好きだぞ」