< 気がすむまで >

 苦しいわよ、と、腕の中からこもった声が聞こえてくる。それでも離すことはせずにただ、そうか、とだけ返した。
 苦しいとか、痛いとか、彼女の口から文句は出てくるが、「離して」という言葉だけは出てこない。彼はそれに気づいているのか、こぼされる文句に頷くだけだった。

「ディムロス」
「どうした、ハロルド」
「いつまでこうしてるつもりなの」
「さあ。俺の気がすむまで、かもな」

 ちらりと笑って彼が言う。何がおかしいのと、彼女は少しだけ不機嫌そうだ。

「いつ、気がすむの」
「さあ、いつだろう」

彼は笑いを止めずに、そのまま彼女を抱きしめ続けた。