< 引き止めはしないが、 >
唐突は、彼女にとってはなんの変哲もない単語だ。急に、いきなり、出し抜けに、なんの脈絡もなく、それが「彼女」を結びつける。だから、たった今言われたことも、おそらくは不自然なことではないのだろう。
多分。
「カイルくんたちについていく?」
「そ。ついていったほうがいろいろ楽しそうだし、時代を越えるなんてこの期を逃したらなくなっちゃうわ」
「……だが、そう簡単に連れて行ってもらえるとは」
「そんなことないわよ。カイルたちは確実に私の力を必要とするわ」
彼女が確実と言っている以上、確かな理由があるのだろう。ハロルドは決して根拠のない意見を述べない。ディムロスは誰よりもそれを知っていた。そして何より、ハロルドの知的好奇心が人の何千倍も強いことも。
止めたところでハロルドは聞かない、何を振り払ってでもカイルたちについていく。
(たとえ俺が言ったところで、行くんだろうな)
相手を理解している分、融通がきいてしまう。それは少し、ほんの少しだけ、厄介だった。
「どしたの、急に黙り込んで。引き止めようとでも考えてるわけ?」
「まさか。言ったところで聞いてくれるなら、我儘も言おうが。お前はそんな可愛らしい女でもないだろう」
苦笑しながら言うと、ハロルドがおかしそうに笑う。それからまた急に、ディムロスへと体を寄せた。驚きながらも、ディムロスはハロルドの肩を抱く。
「あんたも、損な性分よね~」
「もう慣れた。それに、お前はここに帰ってくるんだろう? それがわかってるだけで、十分だ」
ただ、とディムロスは一つだけハロルドへ言い聞かせるように告げた。
「誘惑したり、されたりするなよ」