< 気まぐれな猫 >
膝に乗っている黒猫を撫でながら、フィリアが言葉を向けてきた。
「リオンさんは、猫に似ていますね」
どこがだ、と問い返すと、フィリアは少し困ったように笑う。怒りませんか、と問う表情に眉根を寄せたが、言ってみろと先を促した。
「あなたはいつか、一人で旅立ってしまいそうです。誰にも頼らず、何も言わず、離れていってしまいそう」
「……」
「猫は元来、単独で行動する生き物ですわ。一時はこのように寄り添ってくれますが、ずっとそばにはいません。時期が来れば、一人で行ってしまう」
「そうだな。猫は気まぐれで、自己中心的だ。お前は僕がそうであると言いたいんだろう」
意地悪く言ってみると、フィリアは表情を曇らせた。困っているのだろうなと思ったが、フィリアから否定の言葉がない以上、リオンも発言を撤回しない。間違った意見でもないので、怒る気にもならなかった。
「だが、一つだけ間違っている」
それでも、リオンにはその中で譲れないことがあった。それを指摘すると、フィリアが首をかしげる。知りたいか、と尋ねると、知りたいです、とすぐに返ってきた。
「こいつはお前から離れるだろうが」
フィリアの膝の上にいる黒猫をつつく。不機嫌そうに「にゃあ」と鳴き、黒猫はいずこかへ行った。わざとだ。フィリアはそれに気づいて、とがめるような表情を向けてきた。リオンはふっと笑って言い返す。
「僕がお前から離れることはないさ」
「!」
「違うか?」
「……ち」
顔を真っ赤にさせたフィリアは、「違いません」と小さく答えた。