< ストレイライズのいち司祭 >

 リオンの目の前に、一人の司祭が屈み込んでいた。彼女は小刻みに肩を揺らし、嗚咽をこぼしている。合間に「すみません」という謝罪が聞こえてきたが、それになんの意味があるのだろうとリオンは思った。

「謝ったからといって、どうにかなるわけでもないだろう」
「……それ、は」
「泣く暇があるならさっさと立て。僕たちには時間がないんだぞ」

 急き立てると、隣から違う声が上がる。言いすぎじゃないか、あんたとこの子は違うのよ、という庇護の言葉を一笑した。

「では聞くが。どこぞの司祭が泣き崩れたところで、グレバムが立ち止まってくれるとでも思うのか?」
「だからってそんな言い方ないだろう。フィリアは戦闘には不慣れなんだぞ」
「それがどうした。ついてくると言ったのはこいつのほうなんだぞ。相応の覚悟があるというなら、不慣れなことくらい自分でどうにかするものだ。ここで立ち止まっていることこそ、愚の骨頂だと思え」

 言葉を放つと、スタンとルーティが顔をしかめた。正論だからこそ、どちらも何も言えないのだろう。悔しそうな顔は見ていて小気味好い。と同時に、苛立ちも生じた。こうしている間にも、グレバムは逃走の距離を延ばしている。ここで無駄な時間を費やさなければならないことに、腹が立つのだ。

(だから連れていくのは嫌だったんだ)

 神職に就く人間が戦いに向いているとは思っていない。だから反対したというのに、グレバムの顔を知っているという理由だけで連れていく羽目になった。その結果、ストレイライズの森から抜けるだけで、面倒な現状に陥っている。リオンにはそれが許せなかった。
 二度、三度の戦闘で、既にフィリアは疲れていた。魔物の血も被ったのだろう、神服はところどころが薄汚れている。司祭とは思えない様相だ。だからといってリオンには同情心も生まれない。戦いに身を置けば、そうなることが当たり前だからだ。汚れるのを厭うなら、神殿で縮こまっていればいい。

「スタンさん、ルーティさん、わたくしは大丈夫です。先を、急ぎましょう」

 苛立ちに身を浸していると、弱々しげな声が耳に届く。ちらりと見やると、ようやく涙を収めたフィリアが立ち上がっていた。心配そうに声をかける人間に笑いかけながら、リオンにも視線を当てる。

「リオンさんも、わたくしが至らないばかりに、すみません。今後は、このような状況にならないよう、精進いたします」
「言うだけなら誰でもできる。……まあいい、急ぐぞ」

 これ以上、非難の声を聞くのも煩わしいし、時間がないのは本当だ。ともかく、と、リオンたちは行程を進めた。

フィリア加入後ストレイライズの森を抜ける辺り。オチがなくてすみません
冷血と冷徹の間なリオンが書きたかっただけなんです