< フィリア争奪戦? >

「俺だよ」
『いいや、わしじゃ』
「俺だって」
『わしじゃて』
「俺だってば!」
『わしじゃと言うておろうが!』

 一人の青年と一本の大剣が、先ほどから繰り返し繰り返し言い合っている。しかし、普通の人間が見ればそれは「剣に向かって怒鳴るおかしな人」にしか見えないだろう。ここにいるのが普通の人間ではないことだけが、幸いと言えば幸いだろうか。
 そんな普通ではない人間、もとい、ソーディアンマスターであるルーティは迷惑そうな声を出した。

「ちょっと、さっきから何言い合ってんのよ」
「だって、ルーティ! 俺のほうだって言ってるのに、クレメンテがそれを認めてくれないんだよ!」
『何おう、おぬしこそいい加減わしのほうだと認めんか!』
「嫌だ。絶対、俺のほうが知ってるに決まってる」
『わしのほうが知っておるっ』
「質問に答えなさい!」

 再開しかけた言い合いを、ルーティの怒号が遮る。彼女の剣幕に、両者はうっと身を縮めた。それから青年と剣は見つめ合い(この表現もおかしなものだが)、ぼそぼそと答えを吐き出す。

「俺とクレメンテ、どっちがフィリアのことを知ってるかって話になったんだ」
『それならマスターとして常にそばにいるわしのほうが、フィリアを知っておるという答えが導き出されての』
「でもクレメンテと会う前に俺はフィリアと会ってるから、俺のほうが知ってるって反論したら」
『寝食や戦場や時間のほとんどを共にしておるわしのほうが、スタンより知っておると反論し返したんじゃ』

 スタンとクレメンテが代わる代わる話す中、ルーティはがくりと肩を落とした。その場にいたリオンも同じ行動を取り、ウッドロウも苦笑いをこぼしている。話の中心に立たされたフィリアは、顔を真っ赤にしていた。

「どどど、どうして急にそのようなお話をなさるんですかっ」

 慌てふためくのは、おそらく間違った反応ではないだろう。そんなフィリアを目にした後で、リオンはスタンとクレメンテに呆れたような視線を渡す。

「救いようのない阿呆は一人かと思ったが、もう一本いたんだな。ああいや、二本か。そんな阿呆をマスターに選んだ奴がいたな」
『おい待て、それはもしかして私のことか』
『もしかしなくてもディムロスのことだろうね』
『スタンとディムロスはともかく、わしまで阿呆とは聞き捨てならんぞ』
「俺はともかくって、ひどいよクレメンテ」
「皆、落ち着きたまえ。リオンくんも。たとえそれが真実であれ、言葉は選んで使ったほうがいい」
『ウッドロウ、それフォローになってないわよ』

 わいわいがやがや、ソーディアンとマスターたちが言葉を投げ合い打ち合い、その場は騒然となった。ああもう我慢ならないと、ルーティは大きく吸い込んだ息を音に変える。

「言わせてもらうけど! フィリアのことをよく知ってるのはあたしよ、あたし!」

 ルーティの高らかな参戦宣言が、スタンとクレメンテに火をつけた。違う意味でフィリアにも火がついた(顔がさらに赤くなっている)。

「ル、ルーティさんまで、突然何を……!」
『聞き捨てならんぞ、ルーティ。おぬしがわしよりフィリアを知っておる証拠でもあるのか』
「女同士だからって、俺より知ってるって言い切れないだろ」
「あーら、女同士だからこそ、男であるあんたたちよりイロイロ知ってるに決まってるじゃない。試してみる?」

 挑発的な言い方にかちんときたのか、二人揃って応と答えた。たちまち「フィリアのイロイロ発表会」が始まり、悪化する事態にフィリアは失神寸前だ。大丈夫かいとウッドロウが肩を支えようとし、リオンはそれを阻みに動いた。
 向こうは向こうで知得勝負、こっちはこっちで争奪戦。災難だなとディムロスは同情の声をこぼし、災難ねとアトワイトが頷く。そしてシャルティエは、次々と明かされるフィリア情報をひとり悦と聞いていた。

フィリアはみんなに愛されてればいいよという形がこんなになりました
争奪戦というよりは拷問に近いような(晒されるプライベート)
それを聞き逃さなかったシャルティエの一人勝ちということで