< 炎の剣、交換を求める。 >

ある時、ディムロスがだしぬけに言った。

『フィリアと組んでみたい』

 スタンは耳を疑った。

「ど、どうしたんだよ、急に」
『ソーディアンというのはな、スタン。それを手にすることで剣術はもとより、晶術をも使えるようになる』

 何事かと尋ねれば返ってきたのは、答えともつかないもの。相剣の名を呼ぶが、彼はそのまま発言を続ける。

『私だって晶術は使えた。人格を投射したことで意思疎通ができ、思うところへ思うように生み出せたものだ。素質の違いか、お前の晶術はそこまでではないが』
「おい、ディムロス」
『安心しろ。晶術が使えない分、剣術はそこそこ使えている』
「……褒められてる気がしない」
『拗ねるな。まあ、使えたと言っても、私の晶術もそこまでではなかったがな。そちらに関しては、アトワイトやクレメンテが飛び抜けていた』

 ディムロスはそう言うが、スタンの溜飲はそこまで下がらなかった。しかし、機嫌を悪くしたままでも時間の無駄だろう。スタンは大人の態度を取ることにした。話の続きを聞かない限り、ディムロスが告げた言葉の意味がわからないままだ。話の流れから推測することはできそうだが、その結論に至った過程がわからない。
 頭をひねらせていると、ディムロスがスタンに尋ねた。先日のことを覚えているかと、彼は言う。スタンは、あ、と声を上げた。

「もしかして、雪原でのことか?」

 思い当たることを口にすると、ディムロスが肯定する。フィリアと晶術、先日という言葉でそれらが繋がった。そういえばそんなこともあったなと、スタンは記憶を辿る。

 それはいつかの出来事。グレバムたちの行方を捜すため情報を手に入れると共に、一定以上の力を手に入れておこうと、リオンが許す限り方方へ足を延ばしていた日があった。
 どこをどう歩き回ったのか、いつの間にか雪原へ足を踏み入れていた。悪環境でもある程度は動けるようにするべきだと言ったのは誰だったか、一行はそのままファンダリア付近で戦闘を重ねることになったのだ。
 その道中、寒いとルーティが言い出したのが発端だったように思う。

「いい加減、寒くて仕方ないんだけど!」
「これくらい耐えられなくてどうする。そうやってわめいていることこそ、愚行だと思え」
「なんですって!?」

 いつもの二人が言い合いを始め、フィリアやマリーが二人を宥め、そして最終的にルーティはスタンに要求してきた。曰く、炎を出せ、と。

「ディムロスをたき火代わりにする気か?」
「こんなところで動き回っても、汗かいたら冷えて今以上に寒くなるじゃない。風邪ひいたらどうするのよ」

 躊躇はしたが、ルーティが騒ぐことで、リオンの機嫌をさらに損ねても面倒だ。あんまり期待するなよと言い置いて、スタンは剣を構えた。
 まではよかったが、期待するなとの言葉通り、結果はよろしくなかった。

『たき火代わりにされるのはどうかと思ったが、お前の晶術は散々だった』
「仕方ないだろ。思いきりぶつけるならともかく、調節して炎を出すとか難しかったんだから」
『それに関しては私も強く言えない。だがな、スタン。私はその時、未だかつて経験したことのない感覚を味わったのだ』

 感動に打ちひしがれているというのは、こういうことだろうか。スタンの耳を打つディムロスの声は、わずかに震えていた。
 スタンが覚えている術の中で最も下級であったファイヤーボールとはいえ、それは攻撃をするための晶術である。加減ができなければ危害を加えることになるのは道理で、術を発動した結果、ルーティは危うく怪我をするところだった。

「フィリアに代わったのはその時だったな」
『そうだ。慌てたフィリアが、調節するのにはコツがあると言って私を手に取った』

 クレメンテがフィリアに素質があると言ったのは、ただの口実ではなかった。彼女はソーディアンの声を聞くことができ、そして剣術よりも晶術に関しての才能が高かったのだ。
 果たしてフィリアが発動した術は、危険とは正反対のものだった。丸い炎は誰を攻撃することもなく、暖かに揺らぎ彼らを照らした。
 そんな一件が確かにあり、それが唐突なディムロスの発言に至ったのだろう。
 先ほどの恍惚とした口調から、晶術の調整という行為(体験?)にいたく感激したように見える。晶術メインで交換することが滅多にないディムロスだからこそ、そんな感情を抱いたのかも知れない。

『あの時は下級晶術だったが、次は上級のものも試してもらいたい。いつも先陣を切っていたし、そちらのほうが私に合っているのだが、たまになら後方から支援というのも悪くない』

 つまり、魔物の大群を後ろから一掃したいのだろう。フィリアならば威力も上がりそうだし、大掛かりな術を使ってほしいように思えた。

(この場合「使われたい」って言うほうが正しいのかな……)

 というわけでどうだスタンと、期待のこめられた言葉がかけられる。見てはいけなかったような知りたくはなかったような珍奇とも表現できる相棒の様子に、スタンは「いいんじゃないかな」と力なく了承するしかなかった。

晶術も使える剣なんだから威力のある術は爽快感があるんじゃないかな→一回試してみたい 的なディムロス
剣として生きて(?)いる内に使われる喜びを覚えたら面白いですよね
それでもって知力の高さで術の威力が変わったらもっと面白そうですよね