< 髪結い >

「髪、結ってもいい?」

 スタンにそう尋ねられて、フィリアは戸惑った。突然すぎることと、その内容に、だ。

「え、ええと」
「やっぱり、だめ、かな」
「……どうぞ」

 落ち込まれると弱いフィリアは、結局その申し出を受けた。別に困ることもないので、構わないことは構わないのだ。
 結いやすいように背を向けて、髪留めを外す。手ぐしで梳こうとすると、それも俺がやるよと制された。どこからか持ってきたのだろうブラシで梳かれる。思ったよりも優しい手つきに、フィリアは少しだけくすぐったさを感じた。不可思議な感覚だ。けれど嫌な気分じゃない。

「人に任せるなんて、久しぶりですわ」
「え? そうなの?」
「ええ。いつも自分でやっていますから」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、神殿から出てやってもらったのって、俺が初めて?」
「そうですね。それと、結ってもらうのが男の方だというのも初めてですわ」

 言い終わると同時にスタンが笑ったのがわかった。その反応にフィリアは首をかしげる。

「スタンさん? どうしました」
「ん、なんか誇らしいなと思って」

 なんであれフィリアの初めてを俺がもらえるのがね。楽しげに告げたスタンは、そのまま若草色の髪に口づけた。