< 涙に濡れた彼女を哂う >

 リオンさん、と彼女は静かに泣いていた。

「だから言ったのに」

 弱々しく震える背中を見ながら、そっと呟く。この声は彼女に聞こえているのだろうか、聞こえていないのだろうか。たとえ聞こえていたのだとしても、聞こえないふりをされているかも知れない。
 神殿のステンドグラスは、日の光を浴びてきらきらと輝いていた。輝くそれを、彼女は身にまとっている。神秘的な光景だ。けれど、今の彼女は悲しみに彩られていて、完全な美にはならない。あるいはその悲哀こそが美しいのか。

「だから、言ったのに」

 こちらを向こうとしない彼女に苛立ちを感じる。こちらを向かせられない自分をもどかしく思う。どうすればいい、どうすればよかった、あれ以外に方法はなかったというのに。今さら後悔したところで、何か救いがあるわけでもない。
 あの少年が暗い過去を背負っていることは、なんとなくは感じ取れた。彼女はきっと少年を救いたかったのだろう。そして少年もまた、彼女に救われたかったのかも知れない。曲げられない何かをへし折ってでも、彼女の手を取りたかったのかも知れない。結局それは選ばれない道だったとしても。

「だから言っただろう、フィリア。……あいつはやめておけって」

 再三同じ言葉を呟いて、口元を歪める。
 彼女を嘲笑うようなそれは、けれどどこかもろいものだった。