< 若草色に手を伸ばす >

 痛いというよりは「ただ引かれている」というそれに、フィリアは後ろを振り返った。そこに思わぬ人物がいたことに驚く。

「スタンさん?」
「え? あっ。ご、ごめん」
「い、いえ。どうかなさったのですか」

 スタンの手にある若草色を見ながら、フィリアは不思議そうに尋ねた。対するスタンは気まずそうだ。

「いや、その」
「はい」
「……なんとなく」
「……はあ」

 うつむきながら答えたスタンにつられるように、フィリアも顔を少しだけ前に傾けた。その間も若草色はスタンの手に収まっている。

(『なんとなく』ですか。……みつあみが珍しい、というわけでもないと思うのですが)
(……何やってんだろう、俺)

 それぞれがそれぞれで考え込む中、傍らに携えられていた剣たちがそっと言葉を交わし合う。

『無意識とは恐ろしいのう、ディムロス』
『スタンの場合、単なる好奇心ですませられそうなところがありますがね』
『なんじゃおぬし、スタンがフィリアの魅力に惹かれてないとでも言うのか』
『誰もそんなことは言ってません。そうでないのは見ればわかる』