< 震える指先に >

 柄にかけた手はかすかに震えていた。偶然それを目にして、ああつらいんだな、と改めて知る。彼女は司祭だ。人を救う役職に就いている、人だけでなく生きているものすべてを救おうという教えを受けた。
 そのことが気になって、尋ねたこともあった。しかしフィリアは、やんわりと退ける。

「自分だけが、つらいわけではありませんわ」
「泣きたくなることとかないの?」
「……もう、簡単には泣きたくありません。それは、覚悟が定まっていないと認めてしまうことになりますから」

 ただの強がりかも知れませんけどねと、フィリアは弱く笑った。
 その会話を経た後でも、震える指を見ることは少なくなかった。それでもフィリアは剣を離そうとしない。少しでも力があるなら、力になれるなら、その身すらも差し出しかねないほどだった。
 身に宿る強さと、その中に凝る弱さ。対極にありながら、常に隣り合わせの要因がひどく目につく。
 自分が彼女を支えられないかと思い始めたのは、その頃からだろうか。