< 心うちもやくや >

 廊下を歩いていると目の前に映った二人の背中に、思わず身を隠す。何かやましいことがあるわけでもないのに、そんな行動を取る自分を不思議に思った。
 そろりと、壁から少しだけ頭を出して、改めて二人の姿を見る。背中しか見えないけれど、言葉を交わしているのはわかった。何を話しているのだろう、その後ろ姿はどことなく楽しそうに見えた。
 傍から見れば不審な姿を、不幸にも仲間の一人に見られていたらしく。
 羨ましいのかと、その人が問うた。何が、と問い返し、あの二人が、とさらに返される。見られていたことに羞恥を覚え、さらにその先を行く感情まで当てられたことがとても気まずく、そんなことはない、と否定した。したところで、その人には何もかも見透かされているのだろう。

 ある朝いつもより早く目が覚めた。もやもやする思考をなんとかしたくて、起き抜けということもあり洗顔してみたが、どうにもすっきりしない。そうだ散歩に行こうと外を出たところで、ばったりと出会ってしまった。

「……スタンさん」
「……えっと、おはよう。フィリア」

 微妙な間を携えながらも、挨拶を交わす。珍しいですねとフィリアが言うと、スタンは「うん」と頷いた。
 スタンとフィリアの目的は一緒だったらしい。他の仲間が起きる前に帰れば大丈夫だろうと、そのまま明朝の散歩へ出かけた。
 まだ少し薄暗さの残る外の空間を、二人は静かに歩いている。会話らしい会話もない散歩だったが、二人の顔に不満の色は見られなかった。どちらかというと嬉しそうだ。そう感じているのは自分だけだろうかと、ひっそりと考える。考えながら、どちらでもいいと思い直した。どちらでもいい、なぜなら今の時間は、気分転換にはうってつけだから、と。

「……あのさ、フィリア」
「はい、なんでしょうか」

 次第に空全体が明るさを取り戻しつつある頃、スタンが口を開いた。フィリアはゆっくりと隣に顔を向け、スタンに答える。

「またいつか、こうやって二人で散歩できたらいいね」
「……ええ、そうですね」

 フィリアが嬉しそうに微笑んだ。そう感じたのは気のせいだろうかと、スタンは考える。けれど、やっぱりどっちでもいいやとスタンもまた笑った。
 返ってきたスタンの笑顔に、フィリアの鼓動が速まる。スタンに聞かれてはいやしないだろうかと気を揉んだが、すぐにそれを打ち消した。どちらでもいい、聞かれても聞かれなくても、この音は真実だから、と。

最後の方まで三人称を明確にしてないのはスタンとフィリアのどちらでも読めるようするためです
二人が二人しておんなじようにモヤモヤ中ーみたいな
不審な姿の目撃者は誰でも当てはめられると思います