< 意外な特技 >

 三時のおやつというものは別になくてもいいのだが、どちらかといえばあったほうがいい。かといってそのためだけにお金を勝手に使うのも憚られる。

(そうだ、こういう時こそ自分で作ればいいんじゃない。食材は自由に使っていいことになってるもの。これならお腹も膨れるし、休も休められるし、一石二鳥だわ!)

 我ながら名案だと、ルビアはカイウスたちに自分が料理をすることを申し出た。約一名だけは不満を言っていたが、他の三人は賛成してくれたので嬉々として調理に取りかかる。材料を取り出し、そこでルビアはあることに気づいた。

「ああ!」
「どうしたの、ルビア?」

 ルビアの大声にアーリアがすぐさま駆けつけてきた。少し遅れてカイウスたちもやってくる。全員が驚いている中、ルビアは弱々しく告げた。

「バナナがない……」
「はあ?」
「バナナ?」
「……食材がないということか?」

 カイウス、ティルキス、フォレストの順に、一言ずつ言葉が返ってくる。大ごとが起きたと思われただけに、三人とも肩透かしを食ったようだ。その中でただ一人、アーリアだけがルビアと食材袋を見つめている。

「せっかくケーキ作ろうと思ったのに……」
「ケーキぃ? おれ甘いもん苦手だから作らなくていいよ」
「別にカイウスのために作るわけじゃないもん。あーあ、今から買いに行くのもなあ……」

 落ち込んでいたルビアだったが、誰かの視線に気づいて顔を上げた。上げると同時にアーリアの目とばっちり合う。じっと見つめられていることに少し驚き、ルビアは首をかしげた。

「アーリア?」
「バナナがないなんて……」
「え?」
「そんなバナナ」

 その場の空気が凍った。

「どうかしら今の、ちょっとだけ自信あるんだけどっ。……あの、お、面白くなかった?」

 頬を淡く染めて、アーリアが問いかける。ルビアは反応ができなかった。
 なにかしらいまの、いまのって……ダジャレ?
 信じたくないと、ルビアは自分の耳を疑う。ティルキスも同じように、表情が固まっていた。フォレストはいつもと変わらない表情なので、動揺しているのかはよくわからない。
 そんな中で、カイウスが平然と口を開く。

「それは使い古されてるネタだから、もうちょっとひねったほうがいいと思うな」
「そう? 逆に新鮮かと思ったんだけど、まだまだだったみたいね」

 ごく自然に繰り広げられる会話に、ルビアの思考はついていけなかった。耐え切れず口を挿む。どういうことか説明プリーズ、ああまともに喋れない。
 それからカイウスは次のように説明した。ヤスカで合流するまでの二人旅の際、アーリアからダジャレを頂戴した。最初はカイウスを励ますためだけかと思っていたのだが、アーリア自身ギャグが好きなことが判明。ヤスカに着くまで、ギャグ披露は頻繁に行われることになった。

「それで耐性がついたっていうか、なんか普通に批評できるようになったというか……」

 なるほどそれなら納得だ。アーリアの嗜好には驚いたが、それを冷静に聞けるようになったカイウスもちょっとすごいとルビアは思った。癪なのでそれは決して口にするつもりはないが。

「意外も意外だな……。いや、それも味なんだろう。うん、俺は大丈夫。ギャグオッケーオールオッケィ」

 ティルキスはまだ少し混乱から抜け出せていないようだ。明らかに言葉選びがおかしい。どう声をかければいいのかわかりかねているのだろう、フォレストが複雑な表情でティルキスを見ていた。

「ごめんなさいね、おかしなこと言っちゃって」
「ううん。いいのよ、アーリア。あたし、アーリアのことがわかって嬉しいもの」
「ありがとう、ルビア」

 アーリアがルビアに微笑みかける。それから、と未だ完全に立ち直っていないティルキスをどうしたものかと眺めるカイウスにも言葉を送った。

「カイウスもありがとう」
「え? おれ?」
「ええ。わたしが言うたび、カイウスは感想をくれたわ。呆れられても仕方ないことを言った時もあったのに、どんなものにも反応を返してくれるもの。本当に嬉しかったのよ」
「おれは、別に……。アーリアが嬉しそうにしてくれるから、言っただけで」
「え?」
「い、いや、なんでもないっ」

 カイウスが慌てて顔をそむける。その頬が真っ赤になっているのを、ルビアは見逃さなかった。

(カイウスのくせに一丁前に青春しちゃって)

 あたしを差し置いて生意気だわ、と思いながら、それでもまだまだだと口元を緩める。

(そういうことは、真正面から堂々と言えて、初めて相手に伝わるものなんだから)

 それができるまで、アーリアはカイウスの「お姉さま」のままだろう。さて彼はいつ大人になれるのだろうと、ルビアは笑みを深くした。
 ケーキは作れなかったし食べられなかったけれど、代わりにいいものが見られたのでよしとしよう。ルビアは取り出していた材料を袋へと戻した。

ルビアが完全に見守る姿勢なのは私の趣味です
二人旅以外でアーリアのダジャレを聞いてない気がするので他の三人は知らないんじゃないかと