< 「君が好きだよ」 >

 驚いたというのが一番の感想だ。
 同じくらいだった背はとうに越され、「久しぶり」という言葉はあの頃よりも低い声だった。体も顔つきも以前と比べものにならないほど彼は成長している。驚かないわけがなかった。

「三年ぶり……だっけ。元気だったか、アーリア」
「ええ。カイウスも元気そうで何よりだわ」

 驚きと同時に、喜びも溢れる。知己との再会は、自然と顔を綻ばせた。

「大きくなったのね、カイウス」
「……なんかその台詞、歳くってる人の言い方みたいだな」

 苦笑するカイウスに、アーリアは頬を膨らませた。どういうことかしらと問い返すと、明るい笑い声でカイウスがごめんと謝る。笑った顔は、あの頃と変わりはなかった。
 かつての面影を見出し、アーリアは安堵する。成長した姿に、知らず緊張していたようだ。
 昼時ということもあって、アーリアとカイウスは昼食をとることにした。落ち着けるところがいいだろうと、アーリアは中心街から少し外れた場所にある飲食店を選ぶ。

「相変わらずマーボーカレーが好きなのね」
「ああ、うん。これだけはどうしてもやめられなくて」

 アーリアの視線から避けるように、カイウスは顔をそらせる。その反応にそろりと笑った。

「恥ずかしがることないわよ。誰にでも好きな物はあるじゃない」
「でもアーリア、笑ってるじゃないか」
「違うのよ、これは嬉しいだけ」
「嬉しい?」
「変わらないところがあって、嬉しかったから」

 その言葉に、カイウスの表情が強張る。それは一瞬の出来事で、次に見た時はいつものカイウスだった。しかし、気のせいにしては引っかかる反応だ。アーリアはそれを問うべきか、食事が終わるまで悩むことになった。

 昼食を終えた二人は、街外れを歩いていた。知己との再会を教会の関係者も喜んでくれ、アーリアにしばらくの自由時間をくれたのだ。
 目的地を決めることなく、言葉を交わしながら歩く。カイウスとの会話は楽しかった。外見が変わっても中身が変わっていない、その事実がアーリアの顔を綻ばせる。

「……アーリア」
「何かしら」

 カイウスが呼びかけ、それまで続いていた会話が途切れた。立ち止まるカイウスに倣うように、アーリアも足を止める。

「あれから三年経ったんだな」
「ええ、そうね。もう三年も経ったのね」

 あなたも大きくなるはずだわと呟けば、その言葉を受けてか、カイウスがじっとアーリアを見つめる。

「どうしたの?」
「……三年。三年、経ったんだ。おれももう、あの頃と同じ子供じゃない」

 ゆるりと伸びたカイウスの手が、アーリアの頬を捕らえた。するりと撫でられ、肩が震える。

「カ、イウス……?」

 頬に感じる大きな手のひらは、あの頃と違った。まだ幼さが残っていたあの手は、もうこの青年には残っていない。

「おれはもう子供じゃない、アーリア」
「カイウス」
「変わってないなんて、あんまり言わないでくれ」

 昼食時の会話だろうか。あの時カイウスが見せた表情の強張りは、気のせいではなかったのだ。
 子供のままだと言いたかったわけではない、カイウスらしさが変わっていないと言ったつもりだった。しかしカイウスには前者に捉えられたようだ。アーリアはそのことを説明しようとした。

「あの、カイウス」
「……わかってるよ。アーリアの言いたいことは」
「え?」
「でも、そういう意味だってわかってても、やっぱり気になるんだ」

 頬に添えていた手を離し、カイウスはため息をついた。こういうところはまだまだだ、とぼやきながら頭を掻く。

「驚いてくれたのは嬉しかったけど、あれは最初だけだったしな。ごはん食べてからは緊張も完全になくなってて、意識されてないのショックだったんだぜ、おれ」
「……え、ええと。ごめん、なさい」

 張り詰めていた空気が急になくなり、アーリアは少し混乱した。それでも、カイウスの言わんとしていることは察せられる。わずかな羞恥を覚えながらもアーリアは謝り、そうするとカイウスは苦笑しながら「いいよ」と答えた。

「ちょっとだけでも緊張してくれてたのはわかってるから、今はそれで十分だよ」
「あの、でも、さっきのは、その……ドキドキしたわ。急、だったし」

 言葉にすることで恥ずかしさが増してしまい、アーリアは顔をうつむける。そうなのか? とカイウスが驚いた声を上げた。それでいてその声には嬉しそうな色が含まれていたので、アーリアの顔はますます赤くなってしまう。

「じゃあ、今度からは抜き打ちでやるよ」
「ぬ、抜き打ちって、どういう……」

 聞き捨てならない言葉に、アーリアは顔を上げた。その瞬間くちびるに熱が灯り、アーリアは目を見開く。

「こういうことだよ」

 鳶色の目がいたずらっぽく彩られ、

「そうだアーリア、言うの遅くなったけど」

 その表情のままカイウスは、アーリアへ愛を告げた。

アーリアへの告白はもう少し成長してからと決めてたカイウス。一人旅はそのためでした
夢を見たっていいじゃない。心は自由だもの(何か言ってる)