< こぼれた無音 >

 正面からじっと見つめられ、カイウスはどぎまぎしていた。動こうにも動けない、何か言おうにも口が開かない。このまま見られ続けていれば、きっと顔が赤くなってしまうことだろう(もしかしたらもう赤いのかも知れない)。どうしたものか、カイウスは悶々としていた。
 視線を外されたのはふとした瞬間。ようやく解放されるのだろうかと、張っていた肩の力を抜こうとした。
 そんな時、

「カイウスの目は、とても綺麗ね」

 淡い色のくちびるを開いて、アーリアはそう告げた。
 目を見開く。急にそんなことを言われて、どう反応したらいいのかわからない。褒められているのだとは思うが、ありがとう、と言うのも何が違う気がする。

「くもりのない鳶の色、あなたはその色で人をまっすぐに見るわ。とても強くて、純粋なまなざし。綺麗よね。だからわたし、カイウスの目が好きだわ」

 にっこりと笑ってアーリアが言った。胸を締めつけるような言葉の羅列に、カイウスは顔をうつむける。

(好きなのは)

 声を出そうとして開いたくちびるからこぼれたのは、かすかな吐息。

(好きなのはおれの目だけ、なのかな)

 心うちに浮かんだ疑問が音になることはなかった。