< 聞かせてくれる? >
揺れる金色は、日の光を浴びてきらきらと。
(きれいだな)
口にするのは気恥ずかしくて、心の中でそっと呟く。そうしていると、すぐ近くから「綺麗だな」という声がした。自分の気持ちを言い当てられたようで心臓が跳ねる。驚いて振り返ると、ティルキスがいた。
「な、カイウス。アーリアの髪って、綺麗だよな」
「え、あ、う……うん」
「日に当たるときらきら輝いて、まぶしいくらいだ」
くだんの彼女に視線を向けながらティルキスが言う。恥ずかしいからと音にできなかった自分とは違い、なんのためらいもなく告げられる青年が少しだけ羨ましい。かといって、聞いているほうが恥ずかしくなるような言葉をすらすら言える自分というのも想像がつかなかった。
(それはちょっと、おれのキャラじゃない気がする……)
仮に言えたとして、ルビアには「正気か」と疑われることだろう。それはご免なので、カイウスは口を閉ざす選択をした。
「さっき、ティルキスと何を話していたの?」
「え?」
「なんだかわたしのほうを見ながら話していたみたいだから、ちょっと気になって」
「え」
アーリアを見ていたことが気づかれていたようだ。見ていたことにも、気づかれていたことにも気まずさを覚える。カイウスが言葉を失うと、アーリアは違う解釈をした。
「あ、も、もしかして勘違いだったかしら。やだ、ごめんなさい」
「い、いや違うよ。見てた見てた、ばっちり見てたっ、見ながら話してたんだ!」
慌てて言ったはいいが、これはこれで大変な告白だ。何を変なこと言っているんだとカイウスは顔を青くし、そしてアーリアは頬を染めた。
「そ、そうなの……」
「ご、ごめん……」
アーリアにつられるように、カイウスの顔も青から赤へと彩りを変えた。
それからカイウスは、アーリアの髪についてティルキスと話していたことを伝える。
「髪?」
「うん。アーリアって金髪だろう? だから、日が当たると髪の毛が光るんだ。それがきれいだって、……ティルキスが、言ってた」
嘘は言っていない。実際にそれを言葉にしたのはティルキスだ。たとえそう思っていても、カイウスは声に出していない(出す勇気なんか、なくて)。
「そう……」
どこか沈んだ声でアーリアが呟く。気を悪くさせてしまっただろうかと、カイウスは慌てた。勝手にじろじろ見てごめん、と謝る。そうすると、謝る必要はないと苦笑された。
「綺麗だと言ってくれて、わたしのほうが嬉しいわ」
「そ、っか。よかった」
ほ、と一安心するも、気分は晴れない。ティルキスに言われたから嬉しいのだろうかと、勘ぐってしまう。なんて心が狭いんだろう、子供っぽいにも程がある。
「……カイウスは」
自己嫌悪に陥っていると、ぽつりと名前を呼びかけられた。え、と顔を上げると、赤みの引かないアーリアの顔がそこにはある。
「カイウスは、どう、思った?」
「? どう思ったって、何を?」
「あの、えっと、その……わたしの髪、を」
どう思ったのかしら、という言葉はかき消えるようだ。
(……それって)
頬を染めながらそんなことを聞かれ、カイウスの気分が浮上しないわけはなかった。