< 涙をぬぐう >
白い頬に手を伸ばして片手で覆った。それから親指を滑らせて、こぼれていた涙を拭う。フィリアの頬が温かかったからか、その雫は冷たく感じた。
「きれいだな」
泣くな、と言おうとしたのだと思う。けれど出てきた言葉はまったく違う、的外れなものだった。驚いたように薄紫の目が見開かれる。涙も止まりそうな勢いに、リッドは気まずさを覚えた。顔をそむけて、そういうことが言いたかったんじゃなく、と口の中で呟いている。
「……リッドさん」
少しだけ笑ったような声にリッドは口を噤んだ。ありがとうございますという言葉が続けられてから、ようやく顔を合わせる。リッドはまだ少し、ばつの悪そうな表情をしていた。
「礼を言われるようなことは、してねえけどな」
「驚きましたけれど、わたくしは嬉しかったですわ」
「……それならいいか」
そしてまた、先ほどと同じ言葉をフィリアの耳元でささやく。未だ離すことのなかった手のひらにじわりと伝わってきた熱は、リッドの好きなものだった。