< エステルのお悩み相談室 >

 船縁に肘をついてどこか遠くを見やるユーリを見かけ、エステルは彼に近づいた。

「どうしたんです、ユーリ?」
「……ん、ああ。エステルか」
「何かお悩み事ですか? わたしでよかったら相談に乗りますよ」
「や、それほど深刻なもんじゃねえけど。まあ、悩みと言えば悩みなんかな。いやでもなあ……」

 自分への返答から、次第に独り言へと変わっていくさまにエステルは首をかしげる。深刻ではないが、一人では解決できない悩みがあるのだろうか。しかし、無理に聞き出すのも憚られエステルはその場で立ち往生した。
 そうしてエステルまでが悩み始めた時、不意にユーリが言葉をこぼす。

「マツヨイグサ」
「え?」
「ナズナ、タンポポ」
「ユ、ユーリ?」
「ハルジオン、ヒメジオン」
「あの」
「ヨモギ、ハハコグサ、ミツバ、スギナ、ハコベ、ノビル、エトセトラエトセトラ……」
「……どうしちゃったんです」

 一通り植物の名を連ねたユーリが、状況についていけないエステルにようやく視線を当てた。そして、今まで挙げた物がすべて食用草だったと告げる。

「フィリアが教えてくれたんだよ」
「フィリアに? ユーリはフィリアと仲よしさんなんですね」

 うふふと微笑むエステルに、ユーリは難しそうな顔をした。「仲よしさん」とはちょっと違う気がする。頭を掻きながら、ユーリが軽く息を吐く。

「仲がよくないんです?」
「悪くはないんじゃないか?」
「質問に質問で返すのはよくないですよ、ユーリ。ユージーンも言っていました」
「ああ、あの軍人のな。仲がいいのか?」
「ユージーンと? 顔を合わせれば会話することはありますけど、いつも一緒にいるマオほど懇意というわけでもないと思います」

 エステルの答えに、俺もそんな感じだとユーリは言った。悪くはない、けれど深く親しいわけでもない。どちらかといえば俺よりあいつのほうが、と、そこまでを音にしたユーリはすぐさま口を閉ざす。エステルが彼の名を呼ぶと、返ってきたのは小さな謝罪だった。

「どうして謝るんです」
「少なからず心配をかけちまったからな。これは俺の問題だから、お前にまで迷惑かけるのはいいことじゃない」
「そんな……。迷惑だなんて思っていません。わたしたち、仲間じゃないですか」
「いや、そこまで言われるほど大層な悩みでもないわけでな」

 ずいっと押してくるエステルに、ユーリがたじろぐ。とにかく落ち着けいいから落ち着け、ユーリがエステルの肩をやんわりと押さえた。
 それから何かに気づいたのか、ユーリが「あれだよ」とエステルに呼びかける。言われるままエステルは振り向き、昇降口から出てきた二人に目を当てた。

「フィリアと、リッドもいますね」
「そのリッドが、結構な大食らいでな。依頼中や修行中に腹が減っても困らないよう、ずいぶんと前にフィリアが食べられる草やらなんやらを調べたらしい」
「それで詳しくなって、ユーリにも教えたんです?」
「そ。……あの司祭さんから教えを受けるのは嫌いじゃないんだが、その元があの兄ちゃんってのがな。正直な話、気に入らない」

 ユーリは、最初エステルが彼を見つけた時と同じように遠い目をしていた。フィリアたちと自分たちに距離はあるが、歩いていけばすぐにでも近づけるだろう。それでもユーリには、簡単に狭められない隔たりのようだ。
 エステルはユーリを見つめながら口を開く。

「ユーリはフィリアが好きなんですね」

 問いかけではない確認に、ユーリがそろりと笑った。

こっそりリドフィリ入れてみたり。ええもう完全な趣味ですとも