< こっちを向いて >
活字を追うフィリアの姿は嫌いじゃない。伏せたまつ毛が白い頬に影を落とすさまや、無意識に動かされるくちびるは、ジューダスの目を引くものだ。
しかしそれは、短時間に限るものでもある。数分、数十分は特に問題ない。それが何時間にも渡ると、ジューダスといえど退屈を覚える。そばにいるのがフィリアならなおのこと、じっとしたままというのはつまらない。
(……暇だな)
時間を持て余しているなら、フィリアと同じように読書でもすればいいのだろう。それでもジューダスが本に手を伸ばさないのは、隣にフィリアがいるからだった。
ちらりと視線を傍らに移すが、読書に耽るフィリアはジューダスの視線には気づかない。しばらくその状態を続けたが、フィリアが顔を上げることはなかった。
「……フィリア」
ぽつりと呼びかけるが、返答はない。ジューダスの声など耳に入らないのか、わずかの反応を見せることもなかった。
むっとして、もう一度呼びかける。
返事はない。
もう一度。
返らない。
「…………ジューダスさん?」
ようやくフィリアが反応したのは、耐え切れなくなったジューダスが行動を起こした時だった。
「あの、どうかされましたか?」
「別に。気にしないで読書を続ければいい」
ジューダスはフィリアの髪を引いていた。引っ張るわけではなく、緩く引くように。痛みはないだろうが、気になってしまう程度を心がけた。
果たしてフィリアの集中が乱れ始める。
それまで一点にあった視線が、ちらちらとジューダスに向けられるようになった。
「……あのう」
「なんだ」
「その」
「僕がここにいては邪魔か?」
「い、いえ、そんなことはまったくありません、けど……」
慌てて否定するも、フィリアの視線はジューダスの手から離れない。その間もジューダスはフィリアの髪から手を離さず、ゆるゆると引いたり弄ったりを繰り返す。
「まあ、邪魔ではないだろう。さっきまでお前は、僕がいても気にすることなく本に没頭してたからな」
「ジューダスさん……」
ジューダスの言わんとしていることを察したのか、フィリアの視線が恨めしげなものに変わった。それから視線を本へと戻し、言われたように読書を続ける姿勢を取る。意外と頑固なフィリアは、ジューダスの行動に火をつけられたようだ。
フィリアの意識は再び本に向けられたが、ジューダスはもうつまらないとは思わなかった。
そうこうしている間にも時間は過ぎる。
長いようで短く、短いようで長い攻防戦はジューダスの勝利に終わった。
「か、髪をほどくのは卑怯ですわ、ジューダスさん」
「人を無視して読書を続けるのはひどいと思うぞ」
「それはその……いえ、でも、ジューダスさんは気にするなとおっしゃったじゃありませんか」
「お前は建て前という言葉を知らないのか?」
そんなことはないだろうと問いかければ、フィリアは返す言葉を失う。
どうやら観念した様子にジューダスは笑って、ほどいた若草色にくちびるを当てた。
せめてマイソロぐらいではいちゃこらさせたい
住んでる時空が違う? そんな問題ちっちゃいちっちゃい!
蛇足:リオンとジューダスの違い(私の中だとこんな感じ)
リオン→「相手しろ」 忍耐力が弱い 笑
ジューダス→そうせざるを得ない状況に持ち込む 忍耐力が強い