< 裏・認め合う二人 >

 ぎりぎりと歯ぎしりが聞こえる。誰かがどこかで眠っているのだろうかと思って辺りを見回すと、難なく音源を見つけることができた。
 思わぬ人物に、スタンは軽く目を見開かせる。

「リオン?」
「……」
「おーい、リオン」
「…………」
「あれ、聞こえてないのかな。リオンー、リオーン、リオンくーん」
「喧嘩を売っているのか、貴様」

 どうやら「くん」付けは気に入らなかったらしく、剣を突きつけられた。ウッドロウ相手だと大人しいのに、自分では癇に障るのだろうか。
 失礼な、とも思ったが、スタンはすぐに考え直した。なぜなら自分も、リオンに「スタンくん」などと想像でも呼ばれたくはない。今後は二度とやるまいと決めた。

「俺ってけっこう大人だなあ」
「寝言は寝て言え」
「ちょっ、それはさすがにひどいぞ、リオン」

 そうかそれはよかったなと、リオンが剣を収め顔をそむける。そしてその目は、いつもより数倍も冷たいものへ変わった。
 視線の先に何があるのだろう。不思議に感じ、スタンもリオンが見ているらしい場所へと目を向ける。そこにいたのは、ユージーンとフィリアだった。

「……ああ。さっきから歯ぎしりしてたのは、あの二人を見てたからだったんだ」

 目にした状況で、スタンは察する。図星なのだろうリオンが、驚愕の表情をスタンへ向けた。そこまで驚かれるのは心外なのだが。何かと「鈍い」と言われているから驚かれてしまったのだろうかと、スタンは冷静に了見してみる。

「でもさ、リオン。あんまり軋ませてると、歯に悪いんじゃないかな」
「余計な世話だ。放っておけ」

 とにかくここから消え失せろと、リオンの背中は言っていた。しかし、そう言われると(というより、ほのめかされると)、逆にそこへ居座りたくなってしまう。
 ああ俺ってあまのじゃくと思いながら、スタンはリオンの横へ移動した。

「おい、何をしている」
「え、俺も観察」
「なぜ」
「うーん。リオンと一緒、かなあ?」

 ちらっとリオンを見やると、すさまじく嫌そうな表情が作られていた。そこまで嫌がられると、スタンとしては楽しい気分になってくるのでやめてほしい。これ以上からかったら、リオンは本気で怒ってしまうだろう。最悪、刃傷沙汰になりかねないのだ。そうなると自分だけでなく、周りに迷惑がかかってしまう。それは避けなければいけない。
 なんとかかんとか、スタンは衝動を抑えることに成功した。

「リオンと一緒はともかく。最近フィリアって、ユージーンさんとよく話してるよなあと思ってさ。ちょっと前に聞いたけど、なんでもみつあみのことで話が合うらしいね」
「……みつあみから身だしなみの話にもなったらしい」

 ぼそっとした呟きが、リオンからこぼされる。どうやらリオンも、フィリアにユージーンとのことを聞いたようだ。ふたり揃って同じことをしてるなあと、スタンは苦笑を禁じ得なかった。

「何がおかしい」
「ううん。俺は歯ぎしりしないように気をつけようと思っただけ」
「……」

 それ以降、リオンが歯を軋ませることはなかった。

スキット「認め合う二人」「ユージーンの身だしなみ」からの派生ネタ
フィリアと楽しそうに話してるユージーンがうらめしい羨ましいとか思ってるリオンと、そのリオンをからかい半分うらやましい半分なスタンとか