< 見慣れた景色 >

 アイリリーと違う城塞都市の風景も、いつの頃からか見慣れてしまった。どの街にいても変わることのない空をぼんやり見上げながら、まだかな、とリッドは思う。

「リッドさん、お待たせしました」
「お。待ってたぜ、フィリア」

 香ばしい匂いと一緒にやってきた女性に目を向け、リッドは笑った。いくつか言葉を交わして、今日のじきもつをありがたく頂く。周りの風景と同じ、このやりとりもいつしか慣れたものに変わっていた。
 ドープルーンへの通行が可能になった日、リッドは交わした約束を果たしてもらおうと隣の町へと繰り出した。行動の早さにスタンは驚いていたが、それでもにこやかに対応してくれた。そして紹介されたのが、目の前にいるフィリアだ。
 第一印象は大人しそう、だった。実際にフィリアは「おしとやか」というやつで、滅多に声を張り上げない柔らかな性格をしていた。悪印象は抱かせないが、溌剌さには欠ける。リッドにとってフィリアは、そんな女性だった。
 どちらにせよ、自分の腹を満たしてくれるならなんでもよかったのだが。

「いい匂いだな。今日はなんだ?」
「今日はミートパイを作ってみました。挽肉を使っているので、いつものお菓子よりは食べ応えがあると思いますわ」
「肉か! 肉はいいよな。ありがてえぜ」

 心底嬉しそうにするリッドに、フィリアも笑みを深めた。フィリアは、人の喜ぶ顔を見るのが好きなのだそうだ。ギルドの仲介人を引き受けたのもそのためというのが大きいらしい。交流を深めるうちに知った。立派だなとリッドが言うと、そんなに大層なものじゃないとフィリアははにかんだ。
 可愛いな、と、素直に思ったのが始まりだ。
 足を運ぶことが多くなったドープルーン、見慣れた城塞都市。近頃ではフィリアに会うことが楽しみになっている。それがいったいどういうことかなど、リッドには考えるまでもなかった。

ギルドの仲介人を引き受けた理由は勝手に作ってます。捏造バンザイ