< 決意表明 >

 一つ気になることがある。気づいたのは最近だ。どうしても理由が知りたくて、遠慮なく尋ねてみた。図々しいなんて言っちゃいけない、時には積極性だって必要なのだ。

「プリンだけは、作ってくんないのな」
「え?」

 薄紫の目をまたたいた後で、フィリアが苦笑した。困っているのだろうことはすぐにわかる。それでもリッドは、答えを待った。
 しばらくの沈黙を要して、その場に声が落ちる。頼まれているのだと、フィリアは告げた。

「ある方がどうしても、と」
「俺にプリンを作るなって?」
「……というよりは、その方だけにと言われたんです。他の物はいいから、それだけは誰にも作ってくれるなと」
「誰にだ?」

 名前を伏せている時点で、フィリアが素直に答えることはないだろうと察していた。それでも敢えて尋ねたが、やはりフィリアは答えない。首を緩く振って、申し訳ありませんが、と沈黙を守った。真面目なフィリアらしい、約束は何があっても守り通すのだろう。

「そっか。わかった」

 まあいいか、とリッドは小さく息をついた。本当はよくない。フィリアの作った物なら、なんでも食べたいのに。
 けれどこれ以上を強要したくはなかった。フィリアを困らせるのは本意ではないのだ。見るのなら喜んだ顔がいい。引き出すなら笑顔を。だから、ありったけの忍耐を総動員させた。

「すみません、リッドさん」
「いんや、気にしなくていい。その代わり、他のもん、いっぱい食わせてくれな」
「はい、お任せください」

 嬉々として頷くフィリアに、リッドも笑いかける。今はこれでいい。けれど今だけだ。

(いつか絶対、その約束より俺を優先させるようにしてやる)

 してみせる。できたらいいな、なんて軽い気持ちでは、もうとっくになくなっているのだ。

「ある方」ってのは言わずもがなリオンです