< 気が気でないから 後編 >
(……で、この二人の世界はいつまで続くんでしょうかねえ、クレメンテ)
(そりゃあ、二人の気がすむまでじゃろうて。うむうむ、青春じゃのう)
(いやまあ、二人っきりの時ならそれも別に構いませんけど、人(?)を腰に下げたまま甘ーい空間を作ってくれるのはちょっと……)
間近で見せつけられるこっちの身にもなってほしいもんですよね、とシャルティエはぐちりとこぼす。おぬしはまだまだ子供じゃのうと、クレメンテは笑った。
小声で交わされる剣同士の会話だったが、次第に落ち着きを取り戻したリオンの耳にその会話は入り込んできた。フィリアを見つけたことで緩んだ表情を、またしても怒りを含んだものに変えていく。近くでその変化を感じ取ったフィリアは、慌てて剣たちへと声をかけようとした。
「ああああの、クレメンテ、シャルティエさ……」
「ずいぶん好き放題言ってくれるな、シャル、クレメンテ」
『え』
『好き放題も何も、見たまんまのことじゃから仕方なかろうて。それとも何か、わしらお邪魔虫は沈黙を守っておいたほうがよかったかのう』
「貴様……」
明らかに揶揄するクレメンテに、リオンの怒りが増していく。その空気を、フィリア以上に感じ取らざるを得ないシャルティエは恐怖を覚えた。
『ちょ、ク、クレメンテ、もうそこら辺にして』
『わしらが口を挿まんかったら、おぬしはどこまで行ったかのう。それも見てみたかった気がするわい。ああ、惜しいことをした』
「……フィリア」
「はい!? い、いいえ、クレメンテは渡しませんよ! お、落ち着いてください、リオンさん」
リオンの言わんことをすぐさま理解したのか、フィリアはクレメンテとリオンを離そうと自らが動いた。先ほどとは打って変わった二人の距離に、もしくはクレメンテとの距離にリオンは顔をしかめる。
それから諦めたように、小さく舌打ちをした。
「僕は落ち着いている。とにかくお前が見つかった以上、戻るぞ。あまり時間をかけていると、あいつらが勝手に動きかねない」
「あ、はい。わかりました」
大変な事態に持ち込むことは避けられたようだと、フィリアは安堵の息をつく。それからクレメンテに注意を促した後で、リオンの隣へと並んだ。
スタンたちが待っている場所へと戻る道すがら、ところで、とリオンが口を開く。
「先ほどの答えがまだだ」
「え?」
「なぜ急に離れたんだ。他の人間ならともかく、お前が身勝手な行動を取るのはどうにもおかしい」
リオンの質問に、フィリアはすぐに答えなかった。口を噤んで、うつむいて、リオンの視線に耐えるように黙していたかと思うと、やがて決意したように顔を上げる。
恐縮した様子に、リオンは眉根を寄せた。
「実は……先ほど歩いている時に本でしか見たことのない植物を目にしまして、行軍の途中だとわかっていたはずなのにその植物を目当てに、ついふらふらと行ってしまい」
意を決したということでまくし立て始めたフィリアに内心で驚きながらも、先が読めたリオンはそこで発言を止めた。わかったもういいと告げると、先ほどから何度も聞いた「すみません」がフィリアの口からこぼれていく。
項垂れたフィリアを横目で見ながら、リオンは小さく息をついた。
「今度からは、一言僕に言え」
「え……」
「何も言わずに姿を消すのは、これきりにしろ。いいな」
進行方向を向いたままのリオンの言葉を受けて、フィリアの表情が次第にやわらいでいく。
そうして彼女は嬉しそうに、はい、と頷いた。