< ある日の兄 >
そろそろ物品の残りが少ない。そういうわけで、戦闘疲れの休憩も兼ねて数時間ほど町に滞在することになった。買い出しには誰が行くかで揉めるかとリリスは思っていたが、それは懸念に終わったようだ。兄が「行ってくる」と言い出したのだ。
買い物リストをスタンに渡しながら少し考えた後、リリスは一緒に行こうかと言った。たまには兄妹水入らずで過ごしたいという気持ちがあったのだと思う。しかしスタンはそれを断った。
「リリスも疲れてるだろ? 俺は大丈夫だから、兄ちゃんに任せてゆっくり休んでろって」
「……うん、わかった」
それじゃあよろしくと、メモを渡す。笑って答える兄は、それからおもむろに「彼女」の手を取った。流れるような動きに、反応がついていかない。
「フィリアはこっち」
「え?」
手を取られ、言葉をかけられたフィリアも驚いている。薄紫の目はこぼれてしまいそうなほど見開かれていた。その場にいたリリスも、他のメンバーも同じように驚きを隠せない。その中でスタンだけが平然としていた。
「フィリアは俺と」
「で、でも、スタンさん……」
「じゃ、俺たちは買い出しに行ってくるから。みんなは休んでてくれ」
半ばフィリアを引きずるように、スタンはすたすたと行ってしまった。残された面々はぽかんとした表情で、彼らの行ってしまった方向を見やっている。
「……スタンくんも、抜け目がないようだな」
それからウッドロウがぽつりと呟くまで、彼らは誰一人として動くことができなかった。