< 165cm >

 最近のカイウスは、よくミルクを飲んでいるように思う。食事中はともかくとして、就寝前まで手にはミルクの存在がある。どうにも気になったアーリアは、尋ねることにした。

「カイウスはミルクが好きなの?」
「へ?」

 移動の合間で張ったキャンプのそばで、カイウスは今もまたミルクを飲もうとしていた。急な質問に驚いたのか、カイウスは目を見開いている。その反応と、カイウスの右手にあるミルクを見つめながら、アーリアは答えを待った。

「え……っと、なんで、急に?」
「だってカイウス、あなた最近よくミルクを飲んでいるように思うから気になって」
「いやそのそれは……」
「アーリア。男がミルクを飲む量を増やす時ってのは、大抵相場が決まってるもんさ」

 不意に声が割り込んできて、アーリアはそちらへ視線を向けた。声の主はティルキスで、その表情は楽しげに彩られている。ティルキスは、カイウスがミルクを飲む理由を知っているのだろうか。首をかしげながら、アーリアはティルキスへ質問を移した。

「どういうこと?」
「カイウスは身長を伸ばしたいのさ。高身長ってのは、男にとっちゃ結構切実な問題なんだよ」

 なあカイウスと言葉を投げるティルキスに、カイウスは気まずそうな顔を見せた。おそらく図星なのだろう。カイウスの表情から、無理に聞き出すことではなかったかとアーリアは後悔する。

「ごめんなさい、カイウス……」
「……いや、別にアーリアが謝ることじゃないよ。ティルキスの言ってることも、間違っちゃいないし」
「ああいや、俺も余計なこと言って悪かったよ。ごめんな」
「いいって。……でも、おれの行動そんなに目立ってたか?」

 ちびりとミルクを飲みながら、カイウスが問いかける。アーリアは頷き、ティルキスは少しだけ首をかしげた。

「目立つ、ってほどでもないかな。ただちょっと気になるくらいってだけか」
「わたしは、初めの頃よりミルクの量が多くなったのがとても気になったけれど。……人によって違うものね」
「そうだな」

 ティルキスと頷き合いながら、カイウスへ視線を戻す。カイウスはじっとアーリアを見つめ、ぼうっとしていた。

「カイウス?」
「それって、気にしてくれてたってこと……い、いや、なんでもない」

 何かを呟いたカイウスが、慌てて顔をそむける。彼の頬はわずかに赤くなっていたが、それはアーリアの気のせいだろうか。

「あ、でも、カイウス」
「な、なに?」
「ミルクだけじゃ身長は伸びないのよ」
「えっ」

 告げた内容に、カイウスだけでなくティルキスも驚いていた。自分もこれを初めて知った時は驚いたものだと、アーリアは懐かしさを覚える。

「身長を伸ばすには、ミルクに含まれるカルシウムも大切だけど、たんぱく質のほうがもっと重要なの。たんぱく質には成長ホルモンの分泌を促す働きがあるから、お肉とか魚とか乳製品とかをしっかりとるほうがいいと思うわ」
「そ、そうだったのか……」
「それは俺も初耳だ……」
「もちろんミルクを飲むことも大事よ。だから、カイウスがやっていることは決して無駄じゃないわ」

 安心してと付け加えると、弱いながらも笑顔が返ってきた。完全に落ち込ませずにすんだことに、アーリアは安堵する。それから、何かに気づいたのかティルキスが口を開いた。

「そういえば、なんでまた急に背を伸ばそうとしたんだ? あ、嫌なら別に言わなくてもいいぞ。これは俺の単なる好奇心だから」
「今さら隠すようなことでもないから、いいよ。ただ、もうちょっと身長が欲しいと思ったんだ」

 見たところカイウスは、アーリアと同じくらいの背丈だ。アーリアは女性にしては割と高い。だから、十五歳でアーリアくらいならば、そこまで気にするほどではない気がする。ティルキスも同じ気持ちだったのか、その疑問をぶつけた。

「無理に飲まなくても、カイウスならこの先どんどん伸びると思うぞ。ルビアに抜かされることも、そうそうないだろう」
「いや」

 ティルキスの言葉を遮るように、カイウスが短く告げる。

「ルビアじゃないんだ。おれが追い越したいのは」

 ちらりと、カイウスの目がアーリアをとらえた。視線の意味を問おうとしたところで目をそらされ、それと同時にルビアとフォレストの声が耳に届く。カイウスは残っていたミルクを飲み干し、アーリアとティルキスに声をかけた。

「行こう。二人が呼んでる」
「え、ええ」
「それじゃあ、行きますか」

 さっきの視線は、気のせいだったのだろうか。アーリアの胸に、また新しい疑問が生まれた。

カイ→アリっぽいですね。好きな人より大きくなりたいってやつ