< 終焉のその前に >
なかったことになる思い出を作り続けるとわかっていながら好きになった。後悔はない。相手もそれをわかっている上で、応えてくれた。
名前を呼ぶ時はいつだって思いを込めて呼んだ。名を呼ばれる時も同じくらい心がこめられていた。それがただ嬉しくて、幸せだった。
「フィリア?」
「……」
「……寝てんのか」
傍らに腰を下ろす。相変わらず無防備な彼女に苦笑がこぼれた。今はそばに自分がいるからいいものの。フィリアの場合、たとえ一人でもこうして警戒心を強めるわけでもなく、素の自分をさらすのだろう。不用心すぎるのも、いろいろと厄介だ。
フィリア、と、もう一度だけ名前を呼ぶ。答える声はなかったが、少しだけフィリアが自分に寄りかかってくれたような気がした。リッドは口元に笑みを浮かべて、フィリアの目蓋にくちびるを落とす。
「あんまり……心配、かけんなよ」
共にいられる間くらい、安心して過ごしたい。やがて訪れる喪失が待っているなら、今だけはそんなものを味わいたくはなかった。