※仮面は外してます
 夢かうつつか、暗い夜。手を引かれて辿りついた先に、白い光が集まっていた。

「花びらに触れてみろ」

 言われるままに手を当てれば、あたたかさを感じて驚く。目をまたたかせると、そばに立っていた彼が小さく笑った。

「綺麗ですね。それに、とてもいい香りがしますわ」
「そうだな。だが、それもすぐに終わる」

 この花の命は数時間だと彼は言う。もう一度驚いて顔を向けると、悲しそうな微笑みがあった。

「一夜限りというのは、僕に似つかわしいのかも知れない。……いや、そう感じるなど馬鹿げているな」

 その表情と声が痛ましくて、フィリアは彼の名を呼ぼうとした。けれど、開いた口は言葉を発せられない。甘い香りがくちびるに触れていた。

「はかなさを表した花だが、強い意志や秘めた情熱という花言葉もあるらしい。似つかわしいというなら、お前のほうだな」

 白い花びらが離れて、閉じざるを得なかった口を開く。言うべき言葉がすぐには見つからず、代わりに「花びらを取ってはいけません」という注意が音になった。
 そう告げると彼は笑って、手に持った花びらに口づけた。

 夢かうつつか。この暗い夜が明ければ、彼はいなくなっているのだろうか。

(似つかわしいとあなたが言った、この花のように)

白い光は月下美人