足を向けた先には、目的の人物が予想通りの姿で佇んでいた。無意味に気配を消して近づいてみるが、相手の様子から、気配を消してなくてもきっと気づかれないのだろうと思った。それが彼女らしいと言えばらしいのだろう、苦笑しながらユーリは声をかける。

「熱心だな」
「えっ、あ! ユーリさん! いつの間に……」

 驚くフィリアに、ついさっき、と答えながら彼女が手にしている分厚い本に目を落とした。相変わらず本の虫だと思いながら、開かれたページの内容を辿っていく。どうやら植物について書かれているらしい。文字だけでなく、写真も載っていた。

「図鑑?」
「はい。ここでは見慣れない植物を目にすることもありますので、それについて調べようと思ったんです。ただ、図鑑の種類も多いので、どれを参考にしようか少し迷ってしまいまして」
「ふうん、どれどれ?」

 ユーリはフィリアが持っている本から顔を上げて、目の前の本棚に視線を移した。なるほど、フィリアの言うように植物図鑑が何冊か並んでいる。そこから適当に本を取り出し、ぺらぺらと捲ってみた。
 その中のある箇所が、ユーリの意識をとらえる。ぴたりと止まった動きに、フィリアが首をかしげた。

「どうされましたか、ユーリさん?」
「ん、これ」

 フィリアに見えるように本を下ろせば、ジャスミンですわね、とフィリアが言う。

「なかなか興味深い花言葉もあるけど、古くから媚薬としても使われてたみたいだぜ。今度ジャスミンティー淹れたら、飲んでくれるか?」

 満面の笑顔で告げてみれば、からかわないでくださいと、真っ赤な顔で怒られた。

(割と本気なんだがな……)

ジャスミン:あなたは私のもの