入室した先で見たものは、カニタマを食べている魔女の図だった。
「……今日はハロウィンじゃなかったか」
「うん、ハロウィンだよ。いろんなお菓子もらえたの」
「お前が食べている物は菓子には見えないが」
ちらりと、ソフィの向かいに座っているフィリアに目を向ければ、返ってくるのは微笑みだけだ。それはフィリアにしては珍しい、してやったりな表情にも見えた。
不思議に思って、皿の中にある食べ物へと目を向ける。よく見るとそれは、カニタマに似ている別の何かだった。
「何かわかりますか、リオンさん?」
楽し気な問いかけに、リオンはこの部屋へ呼ばれた理由を察して小さくため息をついた。
「プリンか」
円形の黄身へ餡に見立てられたカラメルがかけられ、細かく砕かれた緑色のキャンディがグリンピースよろしく散らばっている。ソフィがカニタマ好きという知識もあって、ぱっと見はカニタマにしか見えなかった。
「おいしいよ。リオンも食べる?」
「あいにく、人の食いかけをもらう趣味はない。……フィリア」
「はい。リオンさんのプリンもありますわ。そのためにお呼びしましたもの。用意いたしますので、こちらへお座りください」
フィリアに促されるまま席へと座る。隣から視線を感じてそちらへ向けば、じっとソフィがリオンを見ていた。
「……なんだ」
プリンについて何か言われるかと思ったが、ソフィは人をからかうような人間ではない。返事を待っていると、ソフィは三角帽子を脱いだ。
「ハロウィンにお菓子をもらえるのは、仮装した人だけなんだよ。だから、リオンにこれ貸してあげる」
「……」
フィリアがリオンを部屋へ呼んだのは、おそらく菓子を作る際に余ったプリンを渡すためだろう。ハロウィンとしての菓子ではないはずだ。しかし、それを一蹴するには目の前の表情は無垢すぎる。
「……笑うなよ」
「? 笑ったりしないよ。だって今日はハロウィンだもん。仮装するのはおかしくないことだよ」
まっすぐな言葉は毒気を抜かれるようだ。この場でとげとげしくなる必要もない気がして、リオンは素直に受け取った。
「まあ、リオンさん。帽子がよく似合っておいでですわ」
「…………そうか」
普段なら気が立つような状況も、そうならないのはこの空間とここにいる人物によるものなのだろうか。考える時間がもったいないような気がして、リオンは目の前の甘味に舌鼓を打つことにした。